農水官僚「天下り」のひど過ぎる実態 「農家を犠牲にして現状維持」 改革は可能なのか
組織を固めるため
日本の農業が危機に瀕するようになった元凶は、農政が一貫せずに、目まぐるしく変わったことにあるが、それ以上に農業協同組合法で保護された農協が、時代に合わせて自ら改革してこなかったことが大きい。その原因になったのが「農政トライアングル」である。
政官業の癒着につながる農政トライアングルがいつから形成されたかは明らかではない。戦時中の食管制度下で米価は政府が決定することになったが、戦後の池田内閣で「農工間の所得格差の是正」が目標になると、米価の引き上げを巡って自然発生的に農政トライアングルが形成されたという。だが1995年に食管制度が廃止され、米は民間市場で自由に売買されたのに、なぜ今も続いているのか。元農水官僚で明治大学教授の作山巧氏が言う。
「例えば、JAが米を保管する倉庫や精米する機械を導入するには農水省の補助金が必要です。JAに農水省や農林族が補助金を与え、かわりに言うことを聞きなさいという関係です。また、JAは金融や保険業務もやっていますが、民間の銀行や保険会社なら兼業は認められないのです。経済界から、JAにだけ特権を認めるのはおかしいという意見もあります。金融事業や保険事業を取り上げたら地域の農協がつぶれてしまうため、そこから守るのが農林族や農水省なのです」
補助金をつけ、農水省OBを天下りさせる手法
トライアングルの要である官僚の天下り先は時代ごとに変化してきたが、2009年まではトップの事務次官が退職すると農林中金の理事長になるのが当然だった。ただ、それ以外の官僚がJAの関連組織に天下ったというのはあまり聞かない。作山教授によれば「昔は各省庁に公益法人などを認可する権限がありましたから、農水省が許可した公益法人に補助金をつけ、そこへ農水省OBを天下りさせる手法が取られていました」という。
ちなみに農協は、全国組織に「JA全中」「JA共済連(全国共済農業協同組合連合会)」「農林中金(農林中央金庫)」があり、その下に、都道府県単位のJA中央会やJA経済連、さらにその下に地域の総合農協が連なる組織である。
昔はどこに天下るかは官僚の勝手次第だったのだ。それが2000年ごろになると冬の時代に入る。まず公益法人制度改革で、省庁が自由に公益法人を作れなくなった。さらに、民主党が09年に政権を取ると天下りのあっせんを禁止した。農林中金の理事長が初めて生え抜きに変わったのもこの頃だ。
ところが12年に政権が自民党に代わると、まるで解放されたかのように天下りが急増(図参照)する。やがて安倍政権がTPP(環太平洋パートナーシップ)協定交渉に合意すると、小泉党農林部会長(当時)が「農協改革」に辣腕(らつわん)を振るった。だが、これはある意味で脅しのようなものだったと前出の作山教授は言う。
「安倍政権は農協改革を最初から本気でやる気はなかったんです。私も農水省時代にTPP参加交渉をやりましたが、安倍さんはTPPに入りたいのにJAが強硬に反対していました。そこで、脅すつもりで農協改革を言い出しました。つまり反対できないぐらいに抑えるだけでよかったのです。農協が持っている票はやっぱり欲しいですからね」
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