ローカル路線で深刻化する「とにかく運転士が足りない」問題…人材難で1日18本が運休の非常事態に どうすれば“地方の足”を維持できるか

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コロナ明けに転職も相次いだ

 ――定年退職に関して言えば、ある程度先を見越して採用の計画を立てられたのではないか。

 弊社の運転士には、JR九州さんからの出向者もいます。その方々が定年退職されることを見越して、採用活動は継続的に続けてきました。コロナ禍で大手の交通事業者が採用を中止、または縮小するなかでも、弊社は将来に備えて採用を継続してきました。

 ところが、コロナ禍が明けてから、他の交通事業者で採用活動が本格的に再開しました。すると、競合が多くなる中、就職・転職希望者にとって比較対象が増え、他社への転職をしやすい背景もあったように思います。こうした事情のため、定年退職と転職がほぼ同時期に発生したのが、現在の運転士不足に陥った要因の一つだと考えています。

 ――採用は現在も行っているのか。

 はい。今年度は運転士の採用が会社の最優先事項と言っていいほどで、強化し、注力している状況にあります。昨年、法改正により、鉄道の運転免許を取得できる年齢が「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げられました。運転士はおおむね、1年数か月で乗務ができるようになりますので、当社としては、採用・養成体制を整え、高校生の採用を積極的に行い、人材の育成をしていきたいと考えています。

同様の悩みを抱える交通事業者は多い

 ――肥薩おれんじ鉄道の事例がクローズアップされているが、人材不足に悩まされている交通事業者は全国的にも多い。

 他社の関係者の話を聞くと、やはり同じ悩みを抱えていると言っていますし、鉄道会社だけでなく、バスやタクシーなどの交通事業者全体の問題と認識しています。近隣のバス会社にも減便を行っている事業者が見られます。

 もちろん、弊社はしっかりと人材確保を行ってまいりたいと思います。そのためには、国や自治体、沿線の学校にも働きかけを行っていきたい。地元で就職することや、Uターン、Iターンなどのメリットを自治体と一緒になって広報し、地元の交通を維持する取り組みを進めたいと思います。

 ――人気の観光列車「おれんじ食堂」が運休していることを寂しがっている鉄道ファンも多い。一刻も早い運転再開を望む声はあるのではないか。

 はい。現状、「おれんじ食堂」も運休している状態にあります。しかし、運転士の数を増やし、一刻も早く列車の再開を目指したいと考えています。そういった苦しいなかでも、観光面で楽しんでいただけるような企画は毎月打ち出しています。

 例えば、「おれんじ食堂」の車両は出水駅に留め置き、レストランやビアホールにして運営しています。沿線のバスツアーにも踏み込んでいます。動かないなりにできることをやっているので、ぜひ足を運んでいただきたいです。弊社のサイトで「おれんじ食堂」の情報をチェックしていただけますと幸いです。

人材難は今後の地方最大の課題か

 なお、この取材の直後、熊本地方を襲った豪雨の影響で肥薩おれんじ鉄道は一部区間の運休に追い込まれた。熊本県内ではJR肥薩線も運休になっており、ローカル線を取り巻く現状は一段と厳しさを増しているといえる。地方の災害復旧を妨げている要因の一つが、あらゆる業界に広がっている人材難にある。

 人材難が、今後の交通政策の在り方を考え直す事態に発展しそうだ。来る北海道新幹線の延伸開業に合わせて、余市~小樽駅間は廃線となり、バス転換が行われる予定だった。ところが、バスの運転士不足のため、バス転換が難しくなっている。開通後の公共交通の維持をどうするべきか、議論がなされている状況だ。

 地域の人々の足である鉄道をどのように守っていくのか。鉄道会社に丸投げするのではなく、沿線住民が一体となって解決策を協議していく必要があるだろう。鉄道は一度失くしてしまったら、復活させることが困難である。地域の人たちの結束が今こそ求められているといえよう。

ライター・山内貴範

デイリー新潮編集部

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