「ダメ、やり直して」妻の監視下でトイレ掃除をさせられる… “家庭内暴君”に疲れた40歳夫が見つけた救い
「暴君」からの感謝
結婚によって、恭子さんはようやくひとりの大人として母から解放されたのだろう。母の欲求に応えることが使命だった彼女は、その後、自分が夫である孝太郎さんを意のままにするようになっていった。言いなりになるのも、相手を支配したがるのも、根は“依存”なのかもしれない。
「恭子の暴君ぶりをたしなめたりいさめたりしながら、それでもなんとか娘たちを大きくしていくためにがんばったつもりです。次女の入学式がすんだ日は、全身の力が抜けて僕、寝込んでしまったんですよ。なんとかここまで大きくなった、大病もせずに小学校にふたりを入れたことに安堵して」
そんな彼を見て、妻の恭子さんは笑っていた。そのころには母からの呪縛もかなり薄まり、逆に夫を信頼していることが言葉の端々に感じられた。ふたりがうまくいっていた証拠だろう。
「妻はその日、おかゆを作ってくれて『あなたも大変だったわね。ありがとう』と。僕は『いや、きみこそ大変だったはず』とぜいぜいしながら感謝を伝えました」
すぐにパニクったり大声を上げることもあったが、ふたりで必死でがんばってきたのはお互いにわかっていた。これからもいろいろあると思うけど、協力しあっていこうねと約束した。
それからすぐのことだ。孝太郎さんが恋に落ちたのは。
「センシティブな相談」にのっているうち…
そのころ妻とは職場が別になっていた。異動でやってきたのが芙美香さんだ。芙美香さんの夫も職業は似たようなものだが、職場は違う。だが、孝太郎さんは彼女の夫を以前から見知っていた。ふたりが結婚したのも知っていた。
「芙美香は結婚したばかりでした。僕が38歳、彼女が30歳、芙美香の夫は35歳だったかな。特に芙美香を意識したことはなかったんですが、その年の夏前くらいに同じ仕事をふたりでするようになって。綿密な打ち合わせが必要だったから、毎日のように顔をつきあわせて話していました」
そんな中で、彼女は夫婦の相談ごとを持ちかけるようになっていった。芙美香さんは、かなりセンシティブな問題を抱えていたようだ。
「最初はなかなか言わなかった。聞こうとしても泣いてばかりいた。女性に泣かれると、どうしたらいいかわからなくて、慰める言葉もなくて。ずっと背中を撫でていたことがあったんです。そうしたら彼女がぐらっと傾いてきて、僕は抱きしめるような感じになって。そのときは職場外で打ち合わせをしていたんですが、人に見られたらマズいしと困惑した。すると彼女が『誰かに見られたら、私たち、終わりですよね』って。そう言われると、そんなことないよ、きみの心のほうが重要だよと答えざるを得なくて……」
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