松本潤主演『19番目のカルテ』が教えてくれる 日本の医療と我々には「森」の視点が欠けていないか
「森を意識しながら木を見る」
具体的にはどういうことなのか、第4話をもとに見ていきましょう。
健康診断で糖尿病が見つかった安城耕太(浜野謙太)ですが、妻の早智(倉科カナ)が制限食の弁当をもたせるなどサポートしても、検査の数値はよくなりません。早智から「主治医の鹿山(清水尋也)の指導が悪い」とクレームが入り、総合診療科が診ることになりました。しかし徳重は、安城のことは引き続き鹿山が診て、早智の話は部下の滝野(小芝風花)が聞くように指示。「疾患と病、その両方から人は苦しむ」と、示唆めいた言葉を2人の若い医師に投げかけます。
その言葉の意味を滝野から尋ねられた徳重は、「疾患は体の異常、病は……考えてみて」と答えるにとどめます。
少しして、徳重は滝野と鹿山に、「見えないものを一歩引いて可視化する」ことを勧めます。「見えないもの」とは、たとえば不安、ストレス、もやもやしたもの。検査の数値の分析も大事ですが、「患者さんを診るとき、すぐにわかることとわからないことがある」。だから、わからないことを「患者と話すことで見つけ、紙に書いて整理する」「極端に強い面が出ている人は、裏になにかがあることが多い」というのです。
ただし、「患者さんと向き合うとき、一生懸命になるとき視野が狭く、ミクロのレンズで物事をとらえがちになる」。徳重はそういって、両手を画面の形状にし、滝野の顔を狭くアップでとらえてみせます。続いて、「だから一歩引いてマクロに」といい、両手で構えた画面を広角にします。そしていいました。「その人が病院に来るように至った背景を、広い視野でみることも必要。森を意識しながら木を見る。大事だと思うよ」。
「森を意識して木を見る」。医療ではなくても、最近、思い当たることだらけです。自分たちが裏金問題を曖昧にしたから党が支持を失ったのに、首相に責任を押しつけて、指示をさらに失っている人たち。急速すぎる少子高齢化で今後はますます財源が厳しくなるのに、物価高を一時的にしのぐために「減税しろ」と騒ぐ人たち……。たぶん「森を意識」したら、主張する内容がずいぶん変わるのではないでしょうか。
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