母の名を呼び、「死ね!」と叫んだ…虐待のトラウマに苦しむ60代「ひきこもり」男性がいま、心の底から願うこと【毒母に人生を破壊された息子たち】
ガチこもり
小康状態も束の間、阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件などが相次いで起こり、不安でうつが悪化。池井多さんは父が実家に戻った後も、そのまま団地に残り、完璧にひきこもった。この33歳から37歳の4年間を、池井多さんは「ガチこもり」と言う。
「雨戸を締め切って、穴蔵のようなところにひきこもっていました。外の世界は動いていると思い知らされるのが、すごく嫌でした」
この時期、池井多さんが何とか行くことができたのが、団地にある図書館の分室だ。ここで本を借り、フロイトを貪り読んだ。この状況を打開するには、自分で精神分析をすればいいと思ったのだ。
「外を締め切ってみると、難しい本でも読めるんです。わかるんです。読んでいるうちに、この人はこう考えるだろうと、フロイトがインストールされてきた」
強迫症状が消えた
フロイトをインストールしたことで、池井多さんは5歳からがんじがらめになっていた、強迫神経症を克服した。病の根幹には、幼い頃、命令に従わないと何度も言われた「お母さん、死んでやるからね」という呪いがあった。
「僕が世界で一番恐れていたことは、母が死ぬことだったはずなのに、実はそれこそ、世界で一番望んでいることなのだと、フロイトを読んで気づいたのです。ここが、僕にとっての“フロイト的転回”なんだって。じゃあ、それを試しましょう。母親の名前を言って、“死ね!”って言ってみろと自分に言って、セルフ精神分析をしたんです」
わかったことと、実行することの間にはどうしようもない大きな壁があった。
「そんな恐ろしいこと、絶対にできなかった。1週間くらい悶絶して、“しっ、しっ、死ね!”まで言うんだけど、母親の名前がどうしても言えない。そこを、“えーい!”って奮い立たせて、母親の名前を言ったんですよ。“これを言ったら、世界が終わる、生きていけない”って思っていたけど、雨戸をそろそろ開けたら、外はいつもと変わらない。“言っていいんだー!”って、軽々しい気持ちになっていた。僕は母親の死を願っているという一つの方程式が解けたら、連鎖的にいろいろ解けちゃって、1週間もしないうちに、自分を縛っていたいろんな強迫症状が全部、消えたんです」
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