「人民解放軍」を巻き込んで激化する「習近平派」と「反習近平派」の暗闘…軍が「機関紙」で“独裁体制を批判”の意味
習氏の持つ権力
反習派が危機感を強くしているのは、中国で不動産バブルが弾けたことも大きい。中国で土地は原則、国有だ。共産党は不動産バブルを発生させ、国有地の価値を高めることで莫大な収入を得てきた。だがバブルは崩壊し、地方の共産党は目先の党費にも事欠く状況だという。
「『党の資金さえ著しく減少しているのに、何が台湾侵攻だ』というのが反習派の考えです。とはいえ、習氏が掌握している権力も依然として相当なものがあります。例えば中国における軍管区は『戦区』と呼ばれ、東部、南部、西部、北部、中部の5つに分かれています。このうち首都の北京市に司令部を置く中部戦区が最重要の戦区であり、その中部戦区の司令官は王強氏です。王氏は空軍上将で、習氏の抜擢で出世した軍人なのです。習氏は『たとえ地方で軍が反乱を起こすという最悪の事態が発生しても、王氏が中部戦区を統率していれば鎮圧できる。大丈夫だ』と考えているはずです」(同・田中氏)
8月に中国共産党の重要会議である4中全会が開かれ、そこで習氏に退陣が要求されるという観測も流れていた。だが田中氏は「今も習氏が相当な権力を維持している以上、焦点は習氏が3期目を満了する2027年の党大会になると思います」と言う。
“禅譲”を目指す反習派
「反習派の勢いが習派を圧倒していると仮定しても、反習派は後継者が決まっていません。後継者を決めるのには、それこそ2年ぐらいの時間が必要です。習氏も3期目を終えたという“花道”を用意され、いわゆる民間企業でいう顧問とか相談役という、それなりのポストに就いてもらうことで、穏やかな“政権交代”を成し遂げるというのが最も現実性の高いシナリオではないでしょうか。中国の歴史では平和的な方法で王朝が交替することを『禅譲』と表現しますが、まさに現代の禅譲を共産党は目指すと考えられます。そして、習政権の後は集団指導体制に移行するのではないかと考えます。つまり2003年から13年まで国家主席を務めた胡錦涛氏の集団指導体制に戻る可能性があるということです」(同・田中氏)
第1回【「習近平政権」の今後を占う「4中全会」はなぜ“10月開催”となったか…背景に激化する“権力闘争”、軍幹部が相次いで“失脚”する異常事態も】では、中国解放軍の幹部人事に異常事態が連続して起きており、その背景には何があるのか、田中氏の分析を詳細に報じている──。
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