「日本人はタイを支持するんですか――」国境紛争の現地で感じた「カンボジア」の急成長とプライド

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タイには「下に見る」意識?

 7月24日の衝突の2日後、筆者はタイに移動した。いつもは陸路を通るが閉鎖されているため、飛行機を使うしかない。タイのテレビは特別枠で、被害に遭った国境周辺の街をレポートしていた。

「国境周辺の人がかわいそう。カンボジアにはバックに中国がいるから、こんなことができるんですよ」

 建設会社のに勤めるNさん(29)はすべてカンボジアが起こしたことという意識だ。

 8月2日、バンコクで国境紛争に関して政府に抗議する集会が開かれた。参加者のひとり、Wさん(55)はこういう。

「ベートータン首相はカンボジアに利用されている。フン・センは国境問題で圧力をかけて、タイからの援助を引き出す腹。経済力や軍事力ではタイのほうがはるかに上。もっと毅然と立ち向かわないとダメだよ」

 横にいたRさん(56)はこうもいう。

「タイの景気はよくない。カンボジアを商圏にとり込まないといけない。早く国境問題を解決させて、圧力をかけないと」

 こうした台詞からもわかるとおり、タイ人の大多数はカンボジアを見下している気配を感じる。多くの日本人の意識も、カンボジアの急成長を実感していない。

 タイの人々の声をシェムリアップのPさんに伝えてみた。「タイ人はそういうことをいってるんですか」

 国境紛争は終わらないと多くのカンボジア人は考えている。

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954(昭和29)年、長野県生れ。旅行作家。『12万円で世界を歩く』でデビュー。『ホテルバンコクにようこそ』『新・バンコク探検』『5万4千円でアジア大横断』『格安エアラインで世界一周』『愛蔵と泡盛酒場「山原船」物語』『世界最悪の鉄道旅行ユーラシア横断2万キロ』『沖縄の離島 路線バスの旅』『コロナ禍を旅する』など、アジアと旅に関する著書多数。『南の島の甲子園―八重山商工の夏』でミズノスポーツライター賞最優秀賞。近著に『僕はこんなふうに旅をしてきた』(朝日文庫)。

デイリー新潮編集部

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