「小泉農相」の「備蓄米」大放出に農家が抱く“複雑な思い”…コメ作りに「時給10円」時代到来で、日本の食卓に何が起きるか

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将来像

 農家たちは今回の価格調整のための備蓄米放出に対しても、複雑な思いを抱いているという。

「当然です。米の値段が下がるんですから。せっかく(値段が)上がってきて自分たちの実入りが増えるかなと思っていたのに。この物価高で肥料や器具の値段も上がっている。すごいケースだと時給10円という人もいる。5キロ4000円はやはり高すぎだとは思いますが、値上げそのものに反対というのは、持続可能性の観点からはよくない。このままでは農家さんが、本当に辞めてしまう」(実情を知る農業識者)

 消費者はあまりにもコメを作る生産者の現場に無頓着だ。とりわけ昨今の人手不足・高齢化が進み、温暖化に苦しめられる農業の1年は、あまりにも過酷である。

「コメ作りは本当に体力勝負。手間もかかっている。春になればトラクターで土を耕し、田んぼに水を入れて土と混ぜ、平らにする。田植えをした後も、肥料をまいたり、薬を撒いたり獣害対策をしたり。ものすごい手間がかかっている。農家を残すことを考えたら、『高い高い』と言っている場合ではありません」(前出・記者)

 このままの状態が続くと、毎年5%のコメ農家が減ると危惧する関係者の声もあるという。

「大袈裟ですが、いつかもしかすると、戦後の食糧難のように、都会のお金持ちが高価な骨董品や着物、宝石などを田舎の農家に持って来て、『これでコメを譲ってくれ』と物々交換するような『闇米』の時代がやってくるかもしれない。そのくらい現場はひっ迫している」(同)

 農家に限らず、いつの時もモノづくりの現場においては、現場の作業者が置き去りのまま議論される。コメを主食にする日本。今後我々消費者の食卓を守るためにも、消費者自身の現場理解と、政府の制度の見直しが必要だとつくづく感じる。

橋本愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)

デイリー新潮編集部

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