「小泉農相」の「備蓄米」大放出に農家が抱く“複雑な思い”…コメ作りに「時給10円」時代到来で、日本の食卓に何が起きるか
払い下げられた備蓄米を待つ人たち
この備蓄米がなくなることで他に影響が懸念されることがある。5年後に払い下げられるはずの備蓄米を頼りにしている人たちがいるのだ。
備蓄米の保管量は年間約20万トン。保管期間は5年で、計約100万トンが常に備蓄されている。そして、5年が過ぎたらそのコメは民間に払い下げられる。その払い下げられたコメの大半は、家畜の飼料米になる。間違えてはいけないのは、飼料米になるからといって「廃棄」されるわけではない。飼料米としての価値があり、需要がある。つまり、毎年その払い下げ米を頼りにしていた畜産農家にとっては痛手になるのだ。
また、それほど量は多くないが、払い下げられた備蓄米は、貧困家庭や子供たちのフードバンク、こども食堂などにも無償交付されている。コロナ禍の際には、国際支援として船でミャンマーに提供した。こうした支援のための備蓄米不足に対応するべく、政府は追加支援を決定している。
さらに、この5年が過ぎた備蓄米の一部には、「加工用米」として人間の口に入るものがあることはあまり意識されていない。
備蓄米は、温度管理が徹底された倉庫会社で玄米の状態で管理しているため、5年経っても問題なく食べられる。それら払い下げられた備蓄米は「加工米」として流通するのだ。
「例えば味噌とか醤油とか米菓、そしてチャーハンやピラフといった冷凍食品にも払い下げられた備蓄米が使用されています。今回のことでこれら加工用のコメが不足することになる。今後、調味料やお菓子、冷凍食品などが値上げされる可能性も考えられます」(前出・記者)
地元と世間との温度差
地元の人たちや農家には、今回の備蓄米に関する一連の報道や世間の反応には、戸惑いがあった人が多かったという。
「コメがスーパーの棚に並ぶまでの工程を知らない、今までコメに見向きもしてこなかった人たちが、コメの需要が落ちた時だけ『コメだコメだ』と騒いでいたことに戸惑いました」(メディア関係者)
中でもひどいと思ったのが、JAへの批判だ。
「“小泉米フィーバー”の頃の報道は、農協や生産者に対するいじめだとも思った。現地ではなく、新橋の駅前にいるサラリーマンたちにコメの話を聞く。『都会の消費者の声』が中心の報道ばかりなのに疑問を抱くんです」(前出・記者)
以前、「備蓄米を預かる倉庫のうち、かなりの数をJAが運営している」との報道もあったが、それは誤りだという。
「JAは集荷業者で、扱うほとんどは民間米。備蓄米は国に所有権が移るため、倉庫会社に持って行ったあとは、(注・前回記した)『受託事業体』が運営するため、JAは入らないんです。JAは生産者の組合。国の機関でも民間企業でもない。もちろん改善しなければいけないところはたくさんありますが、今回の騒動に関してなぜJAがここまで悪者にされないといけないのかと、田舎の人間は皆そう思っている」(同)
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