「奥菜恵」「宮沢りえ」「夏帆」が10代で出演した“夏映画の名作”といえば 暑さを吹き飛ばすみずみずしい演技を堪能
高い空に浮かぶ入道雲、夕立にあわてて走る子どもたち、夏祭りの金魚すくい、友と行った花火大会や海、網をもって山に分け入った虫取り、祖母の家で食べた冷えたスイカ。異常な暑さが続く日本の夏から消えてしまったものが、どれだけあるのだろうか。
わすれかけていた少年少女の夏の日、それを思い出したい時にぴったりな日本の夏映画3本をご紹介しよう。いまや誰もが知る役者に成長した女優3人が、デビュー間もないころに出演した名作ばかりである。【稲森浩介/映画解説者】
少女から大人へ、奥菜恵の輝き
〇「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」(1993年、劇場公開は95年)
昨年急逝した中山美穂の代表作「Love Letter」(1995年)が先ごろリバイバル公開された。監督はこれが長編第1作の岩井俊二。その前に、岩井が「俊英現れる」と大きく注目された作品が「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」だ。
元はフジテレビのドラマシリーズ「if もしも」の一篇として93年に放送されたものだが、ドラマ作品では初の映画監督協会新人賞を受賞するほどの評価を得、95年に劇場公開された。
両親の離婚に伴い夏休みに転校することになった、なずな(奥菜恵)。小学校の同級生、典道と祐介はなずなのことが好きだったが転校することは知らない。花火大会の当日、二人は「打ち上げ花火は横から見ると丸いのか平べったいのか」を確かめようと、友達と灯台に行く約束をした。同時になずなからプール競泳で勝った方と花火大会に行くと言われて……。
テーマが「if もしも」のこの作品は、3人が経験する2つの異なったストーリーが展開され、ラストも全く違うものとなっている。しかし、この作品の魅力は画面に溢れる叙情性だ。
プール脇に寝そべったなずなの首に蟻がはっていて、「取って」というなずなにどきまぎしたり、「2人で駆け落ちしよう、私が養ってあげる」と言われ、なんと返事していいかわからない困惑した典道の表情。そう、この年代は圧倒的に少女が大人だった。少年たちは好きな女の子の悪口をわざと言い、男同士の約束を優先させて悪ぶって見せるただの子供だったのだ。彼らがいとおしく感じるエピソードが積み重なっている。
少女の不安な心と大人になりかかる姿
叙情性を際立たせているのが、なずなを演じた奥菜恵だろう。放送の前年にデビューした奥菜は撮影時に13歳。美少女ぶりで大きく注目されたが、その伸びやかな演技が強い印象を残す。
特にラストシーン。典道となずなは夜のプール場に入り込む。服を着たままプールに入ると、カメラが水面からなずなの横顔を捉え、彼女は水をすくい顔に激しく当てる。両親の離婚、友との別れなど、少女の不安な心と大人になりかかる姿の一瞬を捉えて美しい。
放送された93年は、サッカー日本代表が初のワールドカップ出場を逃した「ドーハの悲劇」があった年で、日本中が一喜一憂していたころだ。少年たちが灯台へ行く道すがら「オーレ、オレオレオレ」と歌うのは、試合の応援歌。「スタンド・バイ・ミー」(1986年)をも思い起こさせるこのシーンはとても懐かしい。
2017年にはアニメ版が制作されて話題になった。実写版と違い中学生たちが主人公で、ストーリーもSF的要素を取り入れて「if」が何度も繰り返される。興味のある方にはこちらもおすすめだ。
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