「奥菜恵」「宮沢りえ」「夏帆」が10代で出演した“夏映画の名作”といえば 暑さを吹き飛ばすみずみずしい演技を堪能

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夏帆のおさげ髪とセーラー服にときめく

〇「天然コケッコー」(2007年)

 生徒が小中学校で6人しかいない田舎町の木造校舎の分校。そこに通う右田そよ(夏帆)は中学2年生だ。ある日、東京から同学年の大沢広海(岡田将生)が転校してくる。どこか屈折した態度の広海に最初は距離を置くそよだったが、海水浴での出来事から恋心を抱くようになる。やがて2人は高校進学をむかえるが、広海は東京に戻りたいと考えていた。

 島根県浜田市が舞台。青く広がる空やどこまでも広がる緑の田んぼ、鶏の鳴き声、子供だけでいく海水浴、夏祭り。ここには夏の風景や出来事がすべて詰め込まれている。何か大きなことが起きることもない話なのに、画面の中に自分が入り込んで田舎の自然に溶け込んだような気になってしまう作品だ。

 そよの家は両親と祖父母、弟の6人家族。どこにでもある家族風景が心地よい。村に一軒だけの理容室や雑貨屋、郵便局。そこで働く人たちとの交流風景にもなごんでしまう。

 そよは自分のことを「わし」と呼び、「~じゃろうか?」「~じゃけ」といったしゃべり方をする。おさげ髪でセーラー服を着た彼女の方言を聞くと、「日本はこんなに素朴だったんだなと」とても温かい気持ちになる。

演技派女優として見事に開花

 主演の夏帆は、小学生からモデルとして活躍。宮沢りえ同様リハウスガールを務め、映画初出演は2006年だった。翌年15歳で本作の主演を果たす。この作品で日本アカデミー賞の新人俳優賞をはじめ、多くの賞を受賞、一躍映画界から注目される。

 その後も4姉妹の3女を演じた「海街diary」で日本アカデミー賞の助演女優賞を受賞するなど、演技派女優として見事に才能を開花させていった。

 相手役の岡田将生は、両親の離婚によって母親の地元の中学校に転校した少年の複雑さを好演している。本作の翌年から「ホノカアボーイ」(2009年)などで立て続けに主役を務め、各新人賞を受賞した。そして、いまや実直な好青年から酷薄なワルまで幅広い役をこなし、多くの監督が起用したいと希望する役者となった。

 監督は山下敦弘。「リンダ リンダ リンダ」(2005年)では、女子高生バンドが文化祭でTHE BLUE HEARTSの曲を演奏するまでの紆余曲折の日々を描いている。中学生や高校生の心理を捉えるのがうまい監督だ。

 地方の木造校舎に通う7人の生徒たち。そこに自分を投影して夏の日を楽しむのも一興ではないだろうか。

稲森浩介(いなもり・こうすけ)
映画解説者。出版社勤務時代は映画雑誌などを編集

デイリー新潮編集部

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