卵1パック「300円超」は当たり前に…酷暑で「サイズが小さく、殻が薄くなる」異常事態 「暑さに弱いニワトリの命を奪う」リスクも
「今週から《スペシャル卵サンド》って名前に変えて、900円を1,000円に値上げしたよ。仕入れ先が“もうニワトリが大きいサイズ生まないからサイズを小さくする”って。しかもまた値上げするっていうし、もう仕方ないよね」
【写真を見る】1人前で卵10個、食パン1斤使用。圧巻のタマゴサンドを提供する店主も嘆き節
そう語るのは、東京・東銀座の人気喫茶『アメリカン』のマスター・原口誠さん。昭和58年創業の同店の名物は、1人前で約8個もの卵を使用した大ボリュームのタマゴサンドだ。毎日500個の卵を茹で、1か月で1万個もの卵を消費する。
長年にわたり、1人前800円で提供してきたタマゴサンドは物価高の影響で、2024年11月に900円に、そして今年7月末からは1,000円に値上げされた。直近の値上げの原因は、冒頭の言葉通り、卵価格の高騰によるものだ。
「いまスーパーのMサイズ卵が1パック10個入りで300円を超える。うちで頼んでいるLLサイズは1ケース100個入りで4,000円近い。個人店ではウチが日本一レベルで卵を使っていると思うし、値段も勉強して下げてもらっているとは思うけど、それでも卵代で月40万円近くかかっちゃう。もう値上げしないと無理だなと思ってさ」(原口さん)
たび重なる値上げに胸を痛めた店主は、メニュー名を《タマゴサンド》から《スペシャルタマゴサンド》に変更した。
「でも、“スペシャル”って名前にする以上はなぁ…と思って、値上げ前よりもっと盛りをよくしちゃった。結局、1人前に卵10個分くらい使っちゃうから、あんまり儲からないんだよね」(同)
異常な暑さで餌が食べられない
農林水産省によると、全国のスーパーで直近に販売された1パック(10個入り)の平均価格は299円。昨年の同時期と比べて2割以上も高い。また、鳥インフルエンザの影響で卵の価格が高騰した“エッグショック”の2023年同時期よりも高値がついている。
「通常、ケーキやおせちで需要の多い年末年始はともかく、夏場は卵の価格が下がります。昨冬に起きた鳥インフルエンザの影響がまだ残っている中、この暑さでニワトリが夏バテして卵が取れない。卵の価格はいま、記録的な高止まり。さらに暑い日が続くこの8月から9月まではもっと大変なことになると思います」
とは、宇都宮大学農学部農業経済学科助教で農業ジャーナリストの松平尚也さん。国内で2日連続の40度超え、“灼熱の7月”を記録したこの夏。体温調節が苦手な豚が高騰するなど、畜産への影響も報道されているが…。
「豚と同じく体温調整が苦手なニワトリもまた、暑さに弱い生き物です。彼らの体温に影響する臨界温度は27.5度から。鶏舎の室温が27.5度を超えると、暑さのストレスから餌を食べなくなるので、産卵の量が減ります。また産んでもサイズが小さく、殻が薄くなります」
本来、産卵を目的とした鶏舎の理想的な温度は、18度から24度だという。
「ニワトリは高温のなかでは体温を正常に保つため調整します。しかし、27.5度以上となると調節が困難となって体温が上昇します。ニワトリの平熱は42度と高いのですが、死に至る限界体温は47度。この異常気象の中では、とにかく鶏舎の暑さ対策が最重要ポイントになります」
連日の猛暑によって卵の量や質どころか、ニワトリの命を奪う可能性まであるというのだ。
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