「不妊治療から逃げたいんでしょ」妻に見透かされて鬱 48歳夫は“悪酔いの夜”で一線を超えた

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その数週間後…

 だが数週間後、「子どもができた」と妻が言った。「あなたが襲ったときの子よ」と。ハッとして顔を見ると、妻は笑っていた。

「ごめんとまた言いました。すると妻は『今になれば笑って許せる』と。あのとき妻は本当に僕を憎んでいたのではないかと思うんですが、子どもができればすべてOKなのかとちょっと腑に落ちないものを感じましたね。僕が言うのも変だけど」

 37歳で女の子の父になった。時間をやりくりして、なるべく家に帰って子どものめんどうをみた。深夜に仕事をしながら、泣き声を聞きつけては子どものそばに行く生活が、ごく当たり前になっていった。

「子どもはいてもいなくてもいいと思っていたけど、とにかく目の前の子はかわいくてしかたがなかった。妻はちょっと得意げに『ね、子どもはかわいいのよ』と言ってました。なんだか妻に対しても優しくなった自分がいた」

 彼自身は「ごく普通の家庭に育った、ごく普通の男」だそうだ。親からコンプレックスを植えつけられるようなこともなかったし、かといってプライドが特に高いわけでもない。両親は雄一郎さんの意志を尊重してくれた。だから何も考えずに「のほほんと生きてこられた」と彼は苦笑した。

何が雄一郎さんを変えたのか

 彼が変わったのは、やはりパワハラ上司から乱暴な言葉を多々、浴びてからだろう。あんなに「ムカついた」のは初めてだった。

「温厚なオレを怒らせやがって。それなら独立してやる。それが僕のベースになっているような気がします。いい上司に恵まれてサラリーマンをやれたら、僕にはそれがいちばん合っていると思うんですが、そうはいかなかった」

 起業したのがよかったのかどうか、今の時点ではわからない。安定して利益が増えていくわけではないからだ。ただ、利益だけのために仕事をしているわけでもないと彼は、つくづく感じているそうだ。

 子どもが生まれてからは夫婦関係もよく、大きな不満はなかった。妻が職場復帰してから忙しい日々が続いたが、コロナ禍に入って、妻は在宅で仕事をすることもできるようになった。現在も妻は週3日出社だ。通勤時間の分を子どもと過ごすことができると妻が喜んでいたが、雄一郎さんはそれがとても羨ましかったという。

「娘ももう11歳。最近では口答えばかりしています。それもかわいいけど、小学校に入る前、パパ、パパと抱きついてきたころがやっぱり忘れられません。これからはどんどん大人になって、いい話し相手になってくれるかもしれませんが」

 大きくなった。もう抱きついてこないし、こちらから抱きつこうとすると拒絶される。しかたないし当然のことだけど寂しいなあと思っていたのが3年前くらいだった。

 ***

 酔った末の行動、そして独立によって、雄一郎さんの人生は好転したように見える。そんな彼が、なぜ、3年にも及ぶ「不倫沼」にハマってしまったのか。【記事後編】でその顛末を紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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