平成を代表する「未解決事件」の捜査が難航を極めた理由…夜の街に“潜入”した捜査員を襲った“身内からの妨害”

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「雑音は気にせず、捜査を続けてくれ」

 明らかに捜査妨害以外の何物でもあるまい。しかも身内からの暴挙だ。

 特別捜査本部内に不穏分子がいることに危機感を覚えた原は、当時の警視庁刑事部長だった高綱直良(後に警視総監)や中野良一刑事部参事官に錦糸町の潜入捜査の方針変更を申し出た。高綱は警視庁刑事部に未解決事件を解決するための「特命捜査対策室」を全国に先駆け、新設。コールドケースの中でもとりわけ高綱の念頭にあったのは、「柴又上智大生放火殺人」と「世田谷一家惨殺事件」、そしてこの八王子のナンペイ事件である。いわゆる「平成の三大未解決事件」だ。

 その責任者として特命を課されていたのがまさに原だったわけだ。心身ともに疲弊しきった原に、指揮官はこう告げた。

「きみが錦糸町の盛り場で犯行グループを解明するための特命捜査に当たっていることは、警視総監まで報告があがっている。周囲から何と言われようと、そんな雑音は気にせず、捜査を続けてくれ」

 しかし、捜査の術を失った原は、間もなく錦糸町から撤退せざるを得なかった。

 ちなみに、実際に女性に鼻の下を伸ばしていた者がいた。大連における武田の取調べの際、報告書の作成や裏付捜査の指示等に忙殺されていた警視庁の捜査員を横目に滞在中のホテルに中国人女性を呼び寄せていた。この人物は、その後、八王子署特別捜査本部で捜査を指揮する立場となったが、真剣に捜査に向き合うことなく、体制縮小を口にしていた。挙げ句の果てには、あるメディアの女性記者と男女の仲が噂されていた。

 話を捜査の大本命に浮上したK・Rに戻そう。Kをいかにすれば日本に連れてこられるか。この作業はむろん、過去に前例のない困難なミッションだった。

 原は警察庁、外務省、法務省・検察当局などに働きかけを行い、協議を開始。それと並行して、在加日本国大使館を介してカナダ司法省と仮拘禁及び身柄引渡しの交渉を行っていた。中央官庁を巻き込む壮大なオペレーション。果たしてその結果は……。

第4回【「スーパーナンペイ事件」捜査員が打ち明ける“瀬戸際の交渉”…カナダ在住「疑惑の中国人」を日本に連行した「ミッションインポッシブル」とは】では、国を跨いだ前代未聞の“交渉”の舞台裏を詳述している。

デイリー新潮編集部

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