平成を代表する「未解決事件」の捜査が難航を極めた理由…夜の街に“潜入”した捜査員を襲った“身内からの妨害”

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「福建グループが八王子の事件をやった」

“八王子スーパー3人強殺事件の実行犯の彼女”だという中国人ホステスを追い求める原。店名や源氏名を頼りに錦糸町の夜の街を彷徨うが、すでに閉店により探し当てることができず足跡を辿れなかったり、同じ源氏名の別人だったりするなど、成果は捗々しくなかった。【鹿島圭介/ジャーナリスト】

 第2回【捜査線上に浮上した「中国人」…強盗団リーダーが明かす「ナンペイ事件」の裏側 「強盗は少ない人数でやると失敗する。だから、失敗したんだ」】からの続き

 もっとも、そんな中でも「その女の子を知っていた」と言うホステスに行き当たった。彼女は日中、都内の有名私立大学に通いながら、夜は学費を少しでも稼ごうと錦糸町で“夜の蝶”として働く留学生だった。原から身分を明かされた彼女は、必死に探し求める女性の断片情報を提供し、ツテを頼ってその後の行方を探ることにまで協力してくれた。むろん、こうした“夜の街”での捜査活動の結果は逐次、八王子署にある特別捜査本部に報告されていた。

 その一方で、特捜本部は、Kの交遊関係者からあぶり出したWの取調べを続けていた。彼は一時期、中国でKや武田と仕事仲間だった。仕事とはむろん、覚醒剤がらみ。彼は現在のKの所在まで知っていた。

 その情報によると、武田の覚醒剤逮捕直後、自身も麻薬ビジネスに手を染めていたKは間一髪、中国からカナダに出国。その後、福建人支援のコミュニティがあるトロントに移り住んでいた。

 この元仕事仲間Wはこうも語った。

〈Kは“自分たちの福建グループの人間が八王子の事件をやったのは間違いない。実行犯はKの地元の先輩モトムラだと思っている”と言っていた〉

 Wの証言は微に入り細をうがち、迫真性に富むものだった。

過去に前例がない交渉

 こうなれば、是が非でもカナダに逃亡したKへの捜査を実現し、一点突破全面展開を図りたい。

 現状、Kに関し明確に掴めた犯罪事実の中から、短期間で証拠収集ができるのは、カナダの国内法では重大犯罪に当たる旅券法違反だった。Kは2002年4月、当時の彼女と日本を脱出する際、実在する日本人名義で不正に得た旅券を使っていた。

 名義人は、強盗団の一員として、武田から紹介された日本人運転手である。

 だが、原らの前に立ちはだかる壁はあまりに高く厚く堅牢だ。中国も送還を要求している中国人犯罪者について、その逃亡先であるカナダ政府に対し、日本での旅券法違反容疑の逮捕状を基に身柄を拘束させ、犯罪人引き渡し条約を締結していないにもかかわらず、本邦への引き渡しを求めるというのである。過去に前例がない。こんなことが本当に実現できるのか。

 この間、並行して錦糸町での情報収集も続いていた。しかし、原の捜査への意欲をそぐような動きがあった。彼が“捜査費を使って、錦糸町の中国人クラブに入り浸り、ホステスに入れあげている”という心無い噂が警視庁内や記者クラブの間に流布された。むろん虚偽である。出所が、捜査本部にいる一部の捜査員からであることは明白だった。しかも、

「中国人ホステスは、昼間は有名私大に通う苦学生である。その大学に、“お宅に~~という中国人留学生がいるだろ。そいつは錦糸町のクラブで働いている。処分しなくていいのか”と怪電話がかかってきた」

 この怪電話に怯えて憔悴した彼女は、何も手が付かない状態になってしまった。その状況から、協力者として動いてもらうことは取り止め、本来の目的である勉学に集中してもらうことになった。

 この協力者は、有能で誠実だっただけに、彼女を失ったことは、錦糸町の捜査をする上で、大きな痛手となった。

 当初、この怪電話は中国人強盗団による威嚇と考えられていたが、実際の通報者は、特捜本部で捜査を指揮する人物だった。捜査が順調に進む中、嫌がらせをして、この錦糸町ルートの捜査を潰そうとした。

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