時価総額4兆ドル「エヌビディア」の躍進はいつまで続くのか 未来を左右する「データセンター」「トランプ」「中国」

ビジネス

  • ブックマーク

中国向けの輸出再開

 そしてもうひとつの政治的な観点として、最後に言及しておくべきファクターは、「中国」です。

 まず、この4月以降、中国への輸出用にダウングレードされたH20というモデルが事実上禁輸措置になっていましたが、7月15日に米政府が輸出ライセンスを認めることが明らかになりました。実質的に中国への輸出が再開に至ったことは、エヌビディアにとって追い風であることに違いはありません。現にエヌビディア株は上記の報道を受けて時間外で3~4%程度の上昇をみせました。

 中国向け事業においては、H20の生産再開や、一部で開発が報じられているH20の後継機の動向が目先の焦点ですが、今回の輸出ライセンス許可をもって米政府の規制がこの先も緩んでいくと期待すべきではないと考えます。アメリカ政府は第一次・第二次トランプ政権はもちろん、その間の民主党バイデン政権時代も中国への半導体輸出については常に厳しい対応をとり続けてきました。高性能AIチップを中国に輸出すると、中国の軍や監視システムなどに転用されたり、AI開発の進展につながったりする恐れがあるという考え方で、その基本スタンスがすぐに変わることは考えづらいです。

 つまり今回の輸出解禁は、中国との関税交渉の中で、中国産レアアースなどの戦略物資を確保したいアメリカが譲歩したということにすぎず、エヌビディアの中長期的な成長を考える上では常に政治的なリスク要因が意識されることでしょう。

事業の実態に目を凝らす

 今後のエヌビディアを展望するためのリスク要因についていくつかお伝えしましたが、冒頭でお話しした通り、基本的にはどれもエヌビディアの競争優位性がすぐに失われるほどのファクターとはいえないというのが私の考えです。

 ここ1年ほどを振り返ると、中国製AIのディープシークが現れたときや、今年4月の株価急落時など、ことあるごとに「エヌビディアは終わった」などといわれてきました。

 しかし実際は株価の変動こそあれ、業績に大きく影響したわけではありません。“マネーゲーム”としての視点だけでなく、きちんと事業の実態に目を凝らせば、今後また株価の下落などが起こっても、それが一部のメディアで騒がれる「エヌビディアの終わり」なのかどうか、冷静に判断できるのではないでしょうか。

池田伸太郎(いけだしんたろう)
実業家。東京大学生産技術研究所特任准教授。博士(工学)。AIソフトウェア開発や技術コンサルティングなどを行う会社を経営しながら、投資家としての経験を活かしSNSやnoteなどで個人投資家やビジネスパーソンに向けた経済・金融情報等を発信している。文部科学大臣表彰若手科学者賞、空気調和・衛生工学会学会賞(論文賞)などの受賞実績あり。学術の専門領域は人工知能・数理最適化、建築環境・設備工学、建築技術マネジメント。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。