読売グループで「桑田二軍監督」の評価が急上昇 “パワハラ体質”阿部監督の失速で高まる「理論派」待望論

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体罰のアンケート

 厳しい成績と相まって、ジャイアンツ内部では阿部監督の姿勢に疑問の声が上がる機会が増えている。それと軌を一にするように評価が上昇中なのが、桑田二軍監督である。

 桑田氏の信条は「コーチ(監督)というものは選手の“伴走者”でなくてはならない」。名門PL学園時代にはエース、主力打者として甲子園の大スターとなったが、後輩たちが殴られて指導されているのを見て疑問を感じていたという。引退後の2009年、早大大学院のスポーツ科学研究科に合格し、翌年には首席で修了しているが、その際、論文執筆のために、プロ野球選手らに「体罰」に関するアンケートを取ったほどだ。その後も東大野球部の特別コーチを務めるなど、「根性派」とは一線を画した「理論派」の指導が持ち味だ。

 前出の戸郷は今季、降格した二軍で桑田氏からみっちりと指導を受け、今ではすっかり心酔しているという。また、昨オフ、楽天から巨人に移籍してきた田中将大投手も不調で5月から二軍暮らしが続くが、「桑田の指導を受け、すっかり信者になってしまった」(同)

 さらには現在、巨人のローテーションを担う山崎伊織、井上温大両投手らは桑田の教え子。彼らの能力に自信を持っていた桑田は、昨オフ、当時のエースの菅野智之がMLBに移籍した際にも「穴は埋まる」と断言していたが、実際、山崎は今季ここまで8勝、防御率も1点台とエース級の活躍を見せている。

17億円はどうなる

 巨人の(一軍)監督には「エースと4番経験者」しか就任できないという不文律がある。桑田は現役時代、斎藤雅樹、槙原寛己両投手と「三本柱」を形成。最優秀防御率2度、最多奪三振のタイトルを1度獲得し、沢村賞も受賞、伝説の10.8決戦の際には胴上げ投手となり、MVPにも輝いた。実績だけなら有資格者の1人である。

 しかし、「桑田監督誕生」には大きな壁がある。現役時代に巻き込まれた不動産取引の失敗で、巨額の負債を抱え、球団が処理に乗り出した。桑田は晩年にメジャー移籍をしているが、それに怒った当時の渡邉恒雄オーナーが「それなら俺が肩代わりしている17億円の借金はどうなるんだ!」と記者団の前で吠えたこともある。このスキャンダルが尾を引き、2008年に現役引退した後は13年間ユニフォームに袖を通すことがなかった。が、その渡邉氏も昨年12月に98歳で死去した。

降格人事

 2021年シーズン前、桑田氏を巨人の指導者としてオファーしたのは原前監督だった。2年続けて日本シリーズでソフトバンクに4連敗して敗れたチームの再建に向け、山口オーナーに直訴。その年は一軍投手チーフコーチ補佐に就任し、翌年には投手チーフコーチに昇格。が、その年、監督と意見が対立。編成権も持っていた原前監督から「ファーム総監督」という“降格人事”を受けた。

「当時ルーキーだった大勢の起用法を巡ってです。原前監督は彼をリリーフエースとして57試合に登板させた。結果、新人投手最多タイの37セーブをあげましたが、将来のことも考え、この酷使に異議を唱えていたのが桑田氏です。こうした経緯から、大勢は主力選手へと成長した今でも、桑田氏を恩人と思っています」(同)

 阿部監督は3年契約の2年目。昨季は優勝しているだけに、今年成績がよほど悪くても、即“クビ”となることはないだろう。しかし、今の立ち居振る舞いが続けば、成績以上にチームのイメージを悪化させ、ファン離れを生みかねない。その意味で阿部政権は意外と短命に終わるかもしれず、その時、時代の空気とも相まって、「桑田監督」実現の可能性もひそかに囁かれ始めている。本人も意欲は十分だという。

小田義天(おだ・ぎてん) スポーツライター

デイリー新潮編集部

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