トランプ政権を揺るがす「エプスタイン事件」 戦慄のドキュメンタリー映画で明かされた女性たちの「衝撃の証言」とは
生々しい被害者女性たちの証言
さて、そもそも「エプスタイン事件」とはいったい何なのだろうか。
それを知るためにおすすめしたいのが、Netflixの「ジェフリー・エプスタイン:権力と背徳の億万長者」というドキュメンタリーだ。
この4話構成のドキュメンタリーが公開されたのは、2020年のこと。2016年に出版されたジェームズ・パターソンのノンフィクション本をベースとしたものだ。公開時にエプスタインはまだ生きていて、2度目の逮捕の前でもあったことから、フィルムメーカーの関係者らは本人と彼の周囲に気づかれないよう、注意深く製作を進めた。
彼の突然の死という思わぬ事態を受け、最後は、被害者や彼女らの弁護士らがやるせない思いを語るところで終わるが、事件の全容ではないにしても、ドキュメンタリー内には多くの真実がある。
要人との関わりを示す数々の証拠もだが、何より強いのは、被害者女性たちの証言だ。
エプスタインが異常なまでに若い女性との行為に執着していた様子(彼は膨大な少女たちの違法な写真や、若い女性の性的アートなどを保持していた)、自身の秘密がばれないためにどこまで手の込んだ対策をしていたか(彼の家にはトイレも含めすべての場所に隠しカメラがあった)、金、権力、コネクションを使ってどのように罪から逃げ切ってきたのか(最初の家宅捜査前に彼は情報を察知していた。また、最初の逮捕も彼は比較的楽にくぐりぬけた)。
日本ではあり得ない「王族追及ドキュメンタリー」
エプスタインが「どんな人物」で「どうやって財を築いた」のか、そして、米司法省高官が先日面会をしたとされる、彼の元パートナーで現在服役中のギレーヌ・マックスウェルはどこまで事件にかかわっていたのか。
彼女についてのドキュメンタリー映画「ギレーヌ・マックスウェル:権力と背徳の影で」(Netflix)もあるが、もうひとつ合わせて見ると面白いのが昨年Netflixで配信になったイギリス映画「グレート・スクープ」だ。
こちらはドキュメンタリーではなく、実話をもとにしたドラマ。アンドルー王子が王族としての公務から退くことを強いられる結果を導いた、BBCのインタビューの裏側を描くものである。
BBCのインタビューが行われたのは、エプスタインが逮捕されてまもない2019年11 月のこと。この時までに、被害者女性のひとりであるヴァージニア・ジュフリーは、実名でアンドルー王子との間にあった3度の行為について公言していたし、一度目の逮捕の後、エプスタインとニューヨークの街を歩くパパラッチ写真も広く出回っていた。
それでもエプスタインとの交友関係について沈黙を続けていたアンドルー王子に、BBCは「自分の口から話したほうがいい」とアプローチし、彼は決断。嘘を嘘で塗り固めようとするそのインタビュー内容は実に悲惨なものになるのだが、世間の反応を知るまで、本人は「良いインタビューになった」と思っていたところが、また面白い。
内容はさることながら、日本人として感心させられるのは、イギリスではこんなインタビューが実施されて堂々と放映され、その5年後には俳優を使って再現する映画が作られたのだという事実だ。
そもそも「グレート・スクープ」は、エプスタイン問題についてではなく、ジャーナリズムのあり方を語る映画でもある。日本において、このような立場にある人に対し、その証言の矛盾点を鋭く突くインタビューを実施し、それが全国放映されることはあり得るだろうか。
しかも、その5年後には、アンドルー王子の実名を晒した形で映画になったのである。アンドルー王子を演じるのは、「レジェンド・オブ・ゾロ」、「ジュディ 虹の彼方に」などのルーファス・シーウェルだ。
かのワインスタインとも親交があった
ところで、エプスタインの友人の中には、2017年に長年にわたる性加害が暴露されたハーベイ・ワインスタインもいた(これまた、正しい発音はワインスティンである)。
やはり金と権力で自らの悪行を隠蔽し続けてきた彼は、ニューヨークとロサンゼルス、両方の刑事裁判で有罪となり、現在ニューヨークで服役中だ。
「オスカーを牛耳る男」と呼ばれ、毎年のようにアカデミー賞授賞式の特等席に顔を見せた頃の面影は、今やどこにもない。
彼らのような男たちが隠し続ける不都合な事実は、これからも暴かれていくのか。被害女性たちのためにも、彼らの力に屈することなく、たゆみない追及がなされていくことを望みたい。
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