やっと家庭の幸せを知ったのに…夫婦の「夜」に問題が 40歳夫をマチアプに走らせたバツイチ妻の酷評
問題は「夜」にあった
問題があったのは秀平さんと亜紀さんの間である。しかもことは夜の問題。
「最初は同じ部屋で寝ていたんですが、1ヶ月もしないうちに亜紀が『ふたりで寝るのに慣れない』と寝室を別にしようと言った。いいよと別にしたんですが、そうなったら夫婦の営みがまったくなくなった。ある夜、僕が彼女の寝室を訪ねようと部屋の前まで行くと、彼女が誰かと電話しているのが耳に入って……。『そうなの。いい人なんだけどさ、下手すぎるのよ、あっちが。どうしようもなく下手。もうね、ああいうのは天性のセンスだから、教えたってどうにもならないのよ』と言いたい放題。ショックでした。体が動かなかった。そのうち亜紀は『やっぱりあっちゃんと一緒になればよかったかなあ。でもあっちゃん、失業したばかりだし。もうお金の苦労はしたくないのよ』って。あっちゃんというのが誰かはわからないけど、つきあっていた男なんでしょう」
秀平さんは、人生2度目の「はらわた煮えくり返り」を起こす。結局、怒りの元はいつも亜紀さんだと気づいて、さらに体中が震えた。
「でもまあ、大人ですからいきなりドアを開けたりはしません。そうっとドアを開けたら、亜紀はこちらに背中を向けていた。だから顔を覗かせていたんです。いつか気づくだろうと。その直後、亜紀が振り返った。顔が凍りついていました。それを見届けて、僕はドアを閉めて自分の部屋に戻りました。みじめだった。やっぱり僕は男としてダメなんだと、子どものころのコンプレックスが蘇って苦しかった」
夫婦関係はあきらめの境地
亜紀さんは来なかった。翌日も、何ごともなかったかのように朝食を準備していた。秀平さんから「昨夜は……」とも言わなかった。そこは彼のプライドだろう。そして、実はそのまま今に至る……のだという。
「それきりセックスレスですし、だからといって会話がなくなったわけでもない。特に僕はあの息子がかわいくてたまらないんです。自分の子じゃないけど、彼が父親と別れたのは4歳のときで、7歳で僕と出会ってからは本当にかわいくて。結婚後、毎年、息子とふたりで夏休みは旅をしているんです。今年14歳になるけど、夏はふたり旅をします」
70歳になった義母も、変わらず彼を大事にしてくれる。亜紀さんも表向き、態度は変わらない。
「たぶん、もうこれはセックスだけは相互不干渉にしようということなんだろうと僕は受け止めています。それを意識しなければ、亜紀とも話していて楽しいし、何より家庭としてうまくいっている」
「謝られなくてよかった」
それに気づいた秀平さんは、既婚者用のマッチングアプリを使って気軽なガールフレンドを作るようになった。端的に言えばセフレである。
「もちろん亜紀の知らない女性です。今はふたりいます。性欲というよりは、誰かの肌のぬくもりがどうしようもなくほしいとき、会って話して関係を持つ。ふたりとも既婚者、ふたりともぬくもりに飢えている。同じ立場だから気持ちがわかる。慰めあうわけではなく、与え合う。それでまた家庭に戻る。寂しいかどうかは考えないようにしています。『どうしようもなく下手』という言葉が今も脳裏でこだますることがある。つらいのかどうかも考えないことにしました。天性のセンスじゃ、僕は精進のしようもないですから」
本音としては、よほどつらかったのだろう。「精進しようがない」と言いつつ、彼は唇を堅く噛みしめた。よく考えれば、「あのとき亜紀に謝られないだけよかったのかもしれない。謝られたら絶望して家を出て行っていたでしょうから」と彼は言う。そういう受け止め方もあるのか。
亜紀さんの言葉も含めて、その問題をまるごと脳内から消してさえしまえば、彼は「今の家庭」に満足なのだろう。だが、問題は消せない。それをいちばんわかっているのは、秀平さん本人なのだろうけれど。
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就職後、女性への迫り方に「距離感のおかしさ」を見せていた秀平さんだが、もしかすると今の亜紀さんとの関係もまた、距離感の見えなさが影を落としているのかもしれない。その根にありそうなのが、彼の母の振る舞いだ。【記事前編】では、そのエピソードの数々を紹介している。
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