福祉を守るために移民を排斥する…「石破自民」大敗と「参政党」躍進で始まる「右と左のポピュリズム」が溶け合う日本の未来

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 「日本人ファースト」を訴え、参院選では台風の目になった参政党。14議席を新たに獲得し、比例票に関しては野党第1党である立憲民主党を凌ぎ、自民党、国民民主党に次ぐ3番目となった。数年前まではただの泡沫政党だった参政党をここまで押し上げたものは何か、そして日本で今後何が起きるのか。日本社会に潜む我々にとっては“不都合な”地殻変動を作家の橘玲氏が解説する。

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 日本は世界の潮流から半周から一周遅れていて、欧米と同じことが時間差で日本でも起きるのだから、わたしたちは未来を知る水晶玉を持っています。今回の選挙で、主要政党の低迷とアウトサイダー政党の台頭による「政治の液状化」という世界の流れが、ようやく日本にもやってきたことが明らかになりました。

 アウトサイダー政党というのは、政治学者の水島治郎さんらが『アウトサイダー・ポリティクス ポピュリズム時代の民主主義』(岩波書店)で提唱した枠組みで、「従来の政治秩序の周縁部に出自を持ち、「外部」の立場から既成政党の政治家を批判し、既存の政治の「変革」を訴える政治主体を指す」と定義されます。日本では、れいわ新選組や参政党がまさにこの典型でしょう。

 世界を見渡すと、南欧では2010年代に世界金融危機を受けて右と左のポピュリスト政党が台頭し、それまでの中道右派・中道左派の二大政党制が解体しました。

 北アフリカや中東の混乱で大量の移民がヨーロッパに流れ込むと、世界でもっともリベラルな北欧やオランダ、ベルギーなど「北のヨーロッパ」でも、「反移民」を掲げる“極右”政党が台頭します。

 象徴的なのはフランスで、2017年の大統領選では与党・社会党のオランド大統領が支持率低迷から立候補を断念し、「突然変異体」と呼ばれたエマニュエル・マクロンが弱冠39歳で大統領に当選します。それにつづいて行われた総選挙で、マクロンが創設した共和国前進が全577議席中308議席を獲得して圧勝する一方で、それまで与党だった社会党は得票率5%、30議席の壊滅的敗北を喫しました。

“極右政党”を生む各国の経済事情

 イギリスではEUからの離脱を主導したナイジェル・ファラージが率いるリフォームUKが、今年5月の下院補欠選挙や地方選挙で大躍進し、長くつづいた保守党・労働党の二大政党制が揺らいでいます。

 なかでももっとも衝撃的なのは、ナチスの時代の反省から憲法で人種差別や民族差別を禁じているドイツで、連邦憲法擁護庁から「右派過激派団体」と認定された(その後、提訴を受けて認定を保留)「ドイツのための選択肢(AfD)」が、が今年2月の連邦議会選挙で全630議席中152議席を獲得する大勝を果たし、主要政党の中で支持率1位になったことでしょう。

 極右政党への支持が集まる理由としては、各国の経済事情が挙げられます。コロナ禍とロシアのウクライナ侵攻に伴って欧州諸国はここ数年、インフレによる物価高騰に悩まされてきました。インフレによって国民が貧しくなっていく中で、問題を解決できない既存政党への不信感が高まり、そうした不満の受け皿としての役割をアウトサイダーである極右政党が担うことになったのです。

 欧州のトレンドから5年ほど遅れて、デフレから「脱却」した日本でもまったく同じことが起きています。賃上げが物価の上昇に追いつかず、実質賃金は3年連続のマイナスで、国民の6割が「生活が苦しい」と感じている(2024年国民生活基礎調査)ところに、主食であるコメが高騰したことで、参院選では既成政党が軒並み苦戦し、新興の国民民主と参政党に期待が集まりました。

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