日本酒を造りたくても造れない…新規免許「70年ナシ」のなぜ 規制を逆手にとった新ブームとは
「清酒製造免許」を管轄するのは国税庁
ところが、そうしたビジネスチャンスに目を向ける人がいても、現状では参入が難しい。障壁になっているのが「免許制度」の存在だ。
現在、全国で日本酒製造の免許を持っている蔵は全部で1400ほどあり、実際に稼働しているのは1000蔵ほどとされるが、実は約70年間、国内向け製造の新規免許は一切認められていない。
「意外と思われる人もいるかも知れませんが、日本酒製造に必要な『清酒製造免許』を管轄するのは、国税庁です。酒税の区分として清酒の定義があり、その清酒を新たに製造するためには、年間60キロリットル以上の最低製造数量などの条件を満たした上で、製造場ごとに所轄税務署長の許可を得る必要があります」(岸氏)
ただ、こうした要件を満たしたとしても、製造免許の新規取得は原則として認められていない。
「理由は需給調整です。免許を与えすぎて、クオリティの低い粗悪な日本酒が出回ってしまうと、日本酒が売れなくなってしまい、結果的に税収が落ちこんでしまう、という考え方です」(同)
特に日本酒は杜氏と呼ばれるプロフェッショナルが、原料選び、仕込み、発酵管理、貯蔵、品質管理などの全てに携わり、高い技術力が求められる。
「クラフトビールのマイクロブルワリーのように、新規の製造免許を比較的取得しやすい酒類がある一方で、日本酒が同じようになっていないのには、そうした事情もあります」(同)
免許制度を逆手に取った「クラフト酒」
「日本酒を作りたい、でも免許が出ない」
そうした状況で面白い現象が起きているという。
「まったく新たに免許を取得することはできませんが、既存の酒蔵をM&Aなどで買い取り、国税庁に免許の移設を届け出て許可を取ることで日本酒を造ることができるのです。そうした事例がここ10年間で50件以上あります」(岸氏)
さらには、免許の枠組みを飛び超えた酒造りも広まりつつあるという。
「日本酒を造りたくても造らせてもらえない。そうした現状を打破するために、若い人たちが編み出した『クラフト酒』です」(同)
清酒の定義は前述の通り、国税庁が定めており、原料は米、米麹、水、一定量の醸造アルコールと決まっており、これ以外の副原料が入ると清酒としては認められない。
「それを逆手に取り、クラフト酒ではあえて、日本酒の製造工程で副原料を加えるのです。例えば『ボタニカルな花の香りがする日本酒』といった具合です。こうすると税制上のアルコールの分類は『その他の醸造酒』となり、清酒の製造免許は必要ありません」
既にクラフト酒を手掛ける9社が加入する「クラフトサケブリュワリー協会」も存在する。
<有料記事【日本酒が“世界酒”になるためのビジネスモデル 「岩盤規制」崩壊前夜に日本酒業界に吹くイノベーションの風とは】では、日本酒製造免許の仕組みや、岩盤規制への対抗策として生まれた「クラフト酒」の動きについて。そして国税庁が段階的に進める免許解禁の最新状況、さらには日本酒が「世界酒」として成功するためのマーケティング戦略について詳報している>
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