40℃の猛暑でも、クーラーが設置できない…「杏」が嘆いたパリの夏 「エアコン禁止」の理由を現地ジャーナリストが解説

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フランス政府の猛暑対策

 過去最高の猛暑を記録した2003年には、さらに8月にも猛暑が来て、8月1から20日までの間に通常よりも死亡者数が55%多くなった。猛暑のために高齢者15000人が亡くなったといわれている。街を歩いていたおばあさんが突然うずくまり、救急車で搬送されるというような光景が見られた。

 その後、政府は猛暑による健康への影響の軽減・予防のため全国健康管理システムを導入した。6月1日から9月15日までを猛暑リスク監視期間とし(気象条件によってこの期間は数日ほど前倒し、あるいは延長される)、たとえば老人ホームでは必ず1部屋はエアコンの入った涼しい集会室を作らなければならないとか、野外労働者のための涼しい休憩室での定期的休憩と水分供給の義務、学校や幼稚園、保育園の休校などが定められた。これによって2004年以来、惨事は起きなくなっていた。

 今回の猛暑にあたってパリ市は、4段階の猛暑対策のうち最高のレベル4を発動し、約1400カ所のクールダウンエリア(緑地、公園、墓地、プール、ミスト、教会、美術館、博物館、図書館、区役所などの公共冷房休憩室)をサイトに掲載した。

▼公園の24時間開園。緑地に110カ所の日よけ施設。
▼1300カ所の水飲み場と噴水。そのうち175カ所はミスト噴水。
▼7月5日からセーヌ川、サン・マルタン運河、ラ・ヴィレット貯水池で遊泳許可。
▼市営プール10カ所の営業時間を午後10時まで延長。

都市冷房システム

 また「ルフレックス(=反射)ファイル(Fichier Reflex)」と名付けられた、65歳以上の一人暮らし、あるいは障害のある高齢者が電話3975番で登録する制度をつくった。すでに1万人が登録しており、職員が電話で連絡を取り、健康状態やニーズを確認。また、熱波予想が出たときに扇風機1000台を登録者に無料で貸し出すなどしている。

 もっとも、日本とは違ってパリは乾燥しているので、夜は涼しくなる。蚊も少ない。そのため、酷暑になっても窓を開ければ眠れないことはない。直射日光さえ遮れば扇風機と氷嚢で何とかなる。

 猛暑が増えたのは、もともと地球温暖化によるものだ。クーラーは室外機が外気の気温を高めてしまうので、政府としてもあまり推奨していない。

 代わりに今、力を入れているのが「都市冷房」である。

 戦前から都市暖房はあるが、その冷房版だ。1991年頃から始まり、パリだけではなく地方都市のリヨンやマルセイユなどでも始まっている。河川や海の水で熱交換して冷した空気を建物に送り込む。空気中に熱を放出しないため温暖化は加速しない。

 パリではセーヌ川が利用されている。建物から排出された熱い空気がパイプで施設に送られ、そこで平均10℃のセーヌ川の冷たい水のパイプを平行に流して接触させ、冷却されて戻される。

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