40℃の猛暑でも、クーラーが設置できない…「杏」が嘆いたパリの夏 「エアコン禁止」の理由を現地ジャーナリストが解説
人気は扇風機
こうしてようやくクーラーが取りつけられたとしても、もうひとつ別の問題がある。騒音である。PLUには規定はないが、実際、動かしてみて音がうるさいと、近隣騒音防止に引っかかってしまうのだ。判例によると、室外機の音量は昼間で約45デシベル、夜間で約30デシベルがリミットである。ちなみに45デシベルというのは、図書館など日常生活で「静か」と感じるレベルの音量とされている。
つまり、室外機が必要なクーラーやエアコンの設置は、事実上、不可能ということになる。ならばパリ市民はどうしているか。外に何も置かなければよいのだから、室内のみの設置ですむポータブルエアコンや冷風機といったものなら問題はない。コミューンの許可も管理組合の承認もいらない。パリの建物の1階はたいてい店舗になっているが、その多くがこれを使っている。電器店に行けば、ずらっと並んでいる。もっとも、売れ行きはまだ扇風機のほうがずっといいようだ。たしかに、値段はポータブルエアコンの5分の1から10分の1だし、電気代も違う。杏さんも凍らせたペットボトルを扇風機の前に置いて凌いでいると報告していた。
彼女も言っているが、もともとパリはクーラーがいらない気候だった。夏に地中海沿岸に行くと、ホテルに冷房が入っているので驚いたものだ。
フランスも異常気象
実際、統計を見ても、7月や8月の平均最高気温は最近でも約25℃である。しかし、熱波といわれる猛暑が何日か続き、ときには40℃近くなる現象が起きることがある。1976年、1983年、1994年、2003年、2006年、2012年と、何年かごとにそれが数日間から1〜2週間続いた。ところが、2015年以降は毎年のように起きている。
フランス全体のエアコン普及率は、2016年にはわずかに14%だったが、2020年には25%になった。
猛暑は「熱のドーム」という現象で起きると、フランスの気象ジャーナリストは解説している。
「鍋を想像してください。鍋の底が熱くなると、その熱はどこに逃げるのでしょうか? 上です。ですから、地面の熱は空気中に逃げます。ところが、高気圧が停滞すると蓋をしたような状態になってしまって熱が逃げられなくなる。閉じ込められた熱気がさらに日光で熱せられて、どんどん熱くなってしまうのです」
フランスの気象庁の発表では、今年の6月は例年に比べて3・3℃も高く、2003年(+3・6℃)に次ぐ2番目の記録となった。
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