ビンタ、げんこつ、チョーク投げ…令和の若者には理解不能な「教師に殴られるのが当たり前」だった時代をふり返る

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頻繁に自宅に訪れる理由

 また、私の母親はなぜか学校に頻繁に呼ばれ、さらにこの教師は時々我が家に来た。理由は、私の父親が海外赴任をしており、姉と私が片親に育てられているから寂しいだろう、私をぜひ頼ってください、なんなりと相談してください、というのが名目だった。今考えると、間男になろうとしていたのではないかと思うのだ。というのも、ホームルームの時間、やたらと私の母親のことを名前を挙げて褒めるのである。

「中川君(筆者)のお母さんは立派だ。今の時代、味噌汁のダシを取るのにダシの素を使う母親が多いが、中川君のお母さんは煮干しからダシを取っている」

 フルネームは覚えているので検索してみたが、今から約10年前に要職に就任したことが書かれていた。

本当にあった奇妙な話

 中学時代の体育の女教師は「元女子プロレスラーでダンプ松本の“極悪同盟”元メンバー」という噂が立っていた。パンチパーマでとにかく男子生徒だろうが押さえつけて投げてしまうのである。そして必殺技は尾てい骨に決める正確なトゥキックだ。この痛さは何人もの男子生徒をKOしてきた。他にも暴力教師としては、凶器を使用する者もいた。巨大しゃもじ、竹刀、金属バットを駆使して尻を叩くのである。

 他にも今考えると異常な教師がいた。それは、時にレイシズムにも発展するようなものだった。ある日、私はクラスメイト3人とクワガタ捕りに行った。その時、駄菓子屋でかった煙玉を使い、木の洞(うろ)に潜むクワガタを外におびき出すことを試みた。当然ライターを使用しているのだが、これをその中のTという男が自宅に帰って母親に伝えた。すると母親は学校に電話をするのである。一体何を電話したかといえば、こうだ。

「今日、私の息子が中川君、S君、N君と一緒にクワガタを捕りに行きました。その時、校則で禁止されているライターを持っていたことに加え、煙玉を使ってクワガタを捕ろうとしたようです。このような狡猾なやり方をするのは在日韓国人に決まっています。この3人を処分してください!」

 待てよ、アンタの息子だってそこにいただろうが……というツッコミはさておき、翌日のホームルームで私とSとNは前に立たされた。40代の女性教師が担任だったのだが、こんなことを言い出した。

「昨日、T君のお母さんからこの3人がライターと煙玉を使ったとの報告がありました。そしてこの3人は在日韓国人だと言われました。しかし、私が調べたところ、このクラスに在日韓国人はいません。ほら、あなた達3人、自分の口でそう言いなさい」

 私は「在日韓国人」という言葉すら初めて聞いたのだが教師から促され「僕はザイニチカンコクジンではありません」と弁明し、3人がそう言ったところで「はい、これでこのクラスは全員日本人です。ただ、ライターと煙玉は使ってはいけません」と言われ、この地獄のような糾弾会が終わったのだ。要するに、Tの母親も教師も在日韓国人は辣悪で残酷で卑怯である、という決めつけをしていたのだ。

 今の時代の親御さんからしたら、「盛ってない?」「嘘松」と言いたくなるだろうが、本当にあった奇妙な話なのである。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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