日本列島の大動脈を停止させた「日本坂トンネル火災事故」 九死に一生の運転手たちが聞いた「ボーンという爆発音」【週刊新潮が見た昭和】

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「根本はドライバーのモラル」と公団側

 事故直後、公団側はトンネル内の設備は防災基準以上のものだと胸を張っていた。「週刊新潮」も「過去の実績で言うと道路管理者が補償した例はないようですね」「通常の事故の場合は原者、つまり事故を起こした人に負担してもらいます」「いくら防災レベルを上げても、根本はドライバーのモラル」といったコメントを報じた。

 たしかに、先に発生した別の事故による通行止めを経て、日本坂トンネル内の車両は車間距離を取っていない状況だった。加えて、焼失したトラックの中には無許可で危険物を運搬していたものもある。とはいえ、記事はこう続ける。

〈税金のバランス、ドライバーのモラル、確かにおっしゃる通りである。しかし、それをいうなら、やはり、この防災設備を管理していた管理者のモラルと機転も問題にされなければなるまい。〉

 後に運送業者と個人が道路公団を相手取って起こした損害賠償訴訟では、まさにこの安全管理体制と事故の予見性が焦点となった。刑事責任については、81年7月に追突事故の生存者が業務上過失致死容疑で静岡県警に逮捕、送検されたが、不起訴に終わっている。

事故後は全国の長距離トンネルのお手本に

 損害賠償訴訟の原告は運送業者41社と個人10人。東京地裁と静岡地裁にわかれた提訴は、どちらも公団側に賠償金の支払いを命じる判決だった。公団側が控訴を決めたため、控訴審は2つの訴訟を東京高裁で併合しての審理となる。

 1993年6月24日の控訴審判決でも、佐藤繁裁判長は「消防への通報が遅れたうえ、後続車両の進入を食い止める非常警報装置などに不備があり、トンネルは十分な安全性を欠いていた」として、公団側に約2億1800万円の支払いを命じた。

 具体的には「監視カメラの運用が悪くスプリンクラーの作動が遅れた」「消防への連絡が不十分だった」「後続車両の進入を防ぐ可変表示板の設置場所が不適切で、トンネル内のラジオ設備もなかった」という点が挙げられた。

 トンネルの全面復旧には90日を要した。気装置やケーブル類の改良、緊急時に車の進入を禁止する信号機の設置など、防火設備の刷新も行われ、当時は他の長距離トンネルのお手本になったという。また、現在は常識である「車間距離の重要性」が深く浸透するきっかけにもなった。

デイリー新潮編集部

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