「新宿タワマン刺殺」裁判傍聴ルポ 和久井学被告はなぜ犯行現場に「バイアグラと催涙スプレー」を持参したのか 検察は「疑似恋愛と認識していたはずで結婚詐欺ではない」

国内 社会

  • ブックマーク

A子さんや遺族に謝罪の言葉は一言もなし

 検察官の反対尋問が終わると、被害者参加制度を使って遺族代理人が「あなたはこれまで一度も謝罪の言葉を述べていないが、謝罪をするつもりはないのか」と問いかけた。

 公判を通してA子さんや遺族に対して一言も謝罪の言葉を述べていなかった和久井被告は、「謝罪する機会がなかった」と答え、代理人から「手紙を送ることは考えなかったのか」と詰められると、「誰にですか」と逆に聞き返した。さらに「遺族に慰謝料を支払う意思があるか」と聞かれると「お金がないので、慰謝料は考えていません。何もできないです」と答えた。

 裁判官からも、A子さんについて現在どう思っているかと聞かれたが、「まだ心の整理がついていない」と述べるにとどまった。

 10日の第5回公判。論告求刑前にA子さんの父母が出廷して意見陳述書を読み上げた。母は娘を失った悲しみを述べた後、「どうかこの判決がストーカー犯罪を防ぐ強いブレーキになってほしい」と言い、厳罰な処罰を裁判官と裁判員に呼びかけた。

懲役17年の求刑に対して弁護人は11年が相当と主張

 その後の論告で検察官は、逃げるA子さんの髪を引きずり、「やめて」と訴えられるのも聞かずに果物ナイフ2本で胴体を数十箇所も刺して殺害した犯行態様の悪質さや残虐さ、被害結果の重大性を指摘した。犯行動機については「当初から殺害目的であったとまでは言えないが、A子さんに対する激しい報復意図と危害を加える目的があったことは明らか」とし、和久井被告が主張するに「A子さんから金を取り返す目的」を否定。

「約2年の間に、弁護士に相談したり、民事訴訟や警察に再度被害申告するなど正当な手段はいくらでもあったのに、何一つ行っていない」「金を取り返したいと言う気持ちがゼロだったとは思えないが、返金はA子さんへの接触の口実にすぎないとみるべき」と述べた。

 催涙スプレーやバイアグラを所持していたことは、A子さんへの脅迫・性的加害目的が推測されるとした。

「結婚詐欺」があったとする弁護側の主張については、「A子さんから本名、携帯番号、入院先の病院、病名すら直接聞いていないという関係性、シャンパンタワーを入れてほしいという露骨な求めを受け入れて金を渡した事情を考えると、A子さんが結婚を前提に被告人に対して何かを要求していたとは推測できず、結婚詐欺の前提を欠いている」と指摘。「疑似恋愛関係にすぎないことを認識できたはずで、のめり込んだのは被告人の問題であり、A子さんに過剰に帰責するべきではない」とした。

 そして、A子さん遺族に謝罪の言葉を述べていない点なども加えた上で、懲役17年を求刑した。

 一方、弁護側はA子さんの方から和久井被告に結婚を持ちかけていたのは音声証拠にも残っていると主張。車とバイクを売らせて1600万円を受け取っただけでなく、借金までさせて店に通わせたこと、和久井被告と縁が切れてから2年経った後も、和久井被告に気づかれる可能性があるアカウントを用いてライブ配信で和久井被告の悪口を言っていたことなど、「A子さんの落ち度は大きい」として懲役11年が相当と訴えた。

 判決公判は14日。和久井被告は何年の懲役刑に処されるのか。

 前編【「新宿タワマン刺殺」裁判傍聴ルポ 被害女性は「ナメクジ以下でも貸してくれるサラ金に行け」と和久井学被告を罵倒しながら貢がせていた “落ち度”は酌量されるべきか】では、A子さんが和久井被告に送っていた数々の「罵倒LINE」について報じている。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。