「新宿タワマン刺殺」裁判傍聴ルポ 和久井学被告はなぜ犯行現場に「バイアグラと催涙スプレー」を持参したのか 検察は「疑似恋愛と認識していたはずで結婚詐欺ではない」

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わいせつ行為をしようとしていた可能性を否定しなかった和久井被告

 この話に対して、弁護人の後で質問に立った検察官は次々と「疑問点」を指摘していった。

 まず突いたのは、マンションに向かった目的を「金を返済させるため」と語ったことについてだ。和久井被告は元々殺意は抱いておらず、果物ナイフを持って行ったのは脅すためで、A子さんが騒いだから「パニックになって刺してしまった」と主張している。だが和久井被告が描いていたと語る「ナイフで脅せばおとなしくなり、部屋まで案内してもらってネットバンキングで金を返してもらえる」という計画は、そんなにうまくいくだろうかと疑問に思える展開である。

 検察官から「もし警察を呼ぶと騒がれたらどうするつもりだったのか」と聞かれると、和久井被告は「踏ん張ってでも、払うまで部屋に居続けるつもりだった」と答えた。「部屋に入れた時点で殺そうと考えていたのでは」とも聞かれたが、「ないです」と否定。「殺さずともわいせつな行為をしようと考えていたのでは」との問いには「少しは考えていた」と認めたが、「わいせつ行為をしてでも金を払わせるつもりだった」と語り、あくまで返金という目的を遂げるための想定だったと語った。

「仮にあなたの口座に入金されたとしても、後で警察に連絡されて奪い取った金として持ち主に返還されるといった心配はしなかったのか」とも聞かれたが、「こちらは取られた金を取り返そうと思っていたので、また返さなければならなくなるという発想はなかった」と。

 検察官は所持品の中に催涙スプレーとバイアグラが入っていた理由についても聞いた。和久井被告はバイアグラについては女性との性行為に使うために購入したものだが、A子さんに使う目的として所持していたわけではないと答えた。

「結婚話」は面会ではなくLINE通話だった

 検察官は「本当にA子さんと結婚できると思っていたのか」という趣旨の質問も重ねた。そのやり取りの中で和久井被告は、A子さんから直接本名を教えてもらっていなかったこと、携帯電話や入院先の病院、病名も教えてもらっていなかったと認めた。

 和久井被告が主張する「私の夢のために人生をかけてくれたら結婚する」というA子さんの言葉も、面会した上ではく、LINE通話を介して言われたとのことだった。

 こう聞くと、いくらA子さんに夢中になっていたとはいえ、本気で結婚できると思っていたのかやはり疑問が出てくる。

 検察官は「結婚」の話について、「A子さんが言ったことは、要はお店でシャンパンを入れてくれ、という要求だったのではないか」とも追及したが、和久井被告は「彼女の夢はシャンパンを入れないと叶わない夢だった。知り合って3年以上経っていて、最初からキャストと客という関係ではなく、まさか騙されているとは全く思わなかった」と反論した。

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