40歳前後で年収1000万超…NHK局員の「給与削減」はあるのか 次の会長人事の行方

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前田氏は間違っていたのか

 40代以下にも観てもらえる番組づくりが課題だろう。

 皮肉なことだが、2023年にNHKを尾羽打ち枯らして退任した前田晃伸前会長(80)が、在任中に唱えていたことである。

 前田氏は元みずほフィナンシャルグループ社長・会長で、2020年にNHKの会長に就任。在任中の局内での評判は最悪だった。性急に改革を進めたからだ。

 ある年齢に達したら管理職ではなくなる役職定年制を設けたり、管理職昇進の際に試験を課したり、早期退職制度を導入したり、人事制度改革の方策の作成を外部のコンサルティング会社に依頼したり。

 ここで気づかされる。前田氏は突飛なことはしていない。これらは多くの民間企業でやっていることだ。結局、NHKという職員数約1万人の巨大組織が、前田氏のやり方を受け入れられず、ノーを突き付けたというのが真相なのかも知れない。

 前田氏にとって不運だったのは自分を推した故・安倍晋三元首相、元JR東海名誉会長の故・葛西敬之氏が2022年に相次いで他界したこと。右派の葛西氏は安倍氏の盟友で、NHKのキングメーカー的存在だった。

 会長は6代続いて外部から招かれている。名経営者ばかりである。とはいえ、自民党の後ろ盾を抜きにして、巨大組織と渡り合うのは至難に違いない。

 一方、稲葉氏はいまだ存在感が大きい岸田氏がいるためか、危機的な状況も乗り越えた。2024年8月、ラジオ国際放送などの中国語ニュースで、原稿を読み上げていた中国籍の外部スタッフ男性が、尖閣諸島を「古くから中国の領土」などと勝手に放送してしまった件だ。電波ジャックである。それは約20秒間も続いた

 起こり得ない話だった。稲葉氏は「会長として慚愧に堪えない」と謝罪。役員報酬を1カ月間50%返納した。

 だが、ここからが、また問題だった。国際放送の責任者だった傍田賢治理事(62)が引責辞任したものの、メディア総局(旧放送総局)のエグゼクティブ・プロデューサーとして再雇用されたのである。しかも、わずか1週間後のことだった。

 その後の稲葉氏は傍田氏の再雇用に肯定的だった。そして「(辞任で)責任を取る形をつくれた。(傍田氏の)能力をどう使うかは全く別の問題」と説明した。

 稲葉氏は岸田氏の後ろ盾がなかったら、進退を問われたのではないか。過去には職員の起こした不祥事で辞めた会長は2人いる。そうならなかったのは、稲葉氏は局内の信望も厚い。前田改革の大半を白紙に戻したせいでもある。

 現在のNHKはマスコミ対策にも抜かりない。ここ30年、こんな時代は記憶にない。たとえば全回平均世帯視聴率(関東地区)が歴代最低の13.1%だった連続テレビ小説の前作「おむすび」の件である。

 大河ドラマで全回平均世帯視聴率(同)が歴代最低を記録したのは2019年の「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」。8.2%だった。

 放送終了後、当時の木田幸紀放送総局長は「話が分かりにくいなどの指摘は、今後の参考にしたい」と課題を語った。放送中にも視聴率について「厳しい」と口にした。

 一方、現在は「おむすび」の低視聴率の理由について、配信など視聴方法の多様化を挙げるばかりだった。同調する新聞もあった。そうなると、現在の「あんぱん」も低視聴率にならなくてはならない。だが、こちらは週平均で16.0%を超える視聴率がこのところ続いている。

 NHKには「おむすび」について視聴者からの意見が4869件寄せられたという(2024年9月30日~2025年3月30日)。うち好評意見は559件、厳しい意見は1762件あった。約3倍である。

 ドラマの好みは人それぞれだが、不満を持った視聴者が多数に達したときには説明責任があるのではないか。出資者は自民党でなく、視聴者なのだから。まさか官僚のように無謬主義というわけではないだろう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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