芸能界のルールを無視した「カリスマ芸人」が静かに終焉か とんねるず・石橋貴明の行方

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芸風は時代遅れ

 特に、石橋の芸風にはパワハラ・セクハラまがいの要素が多分に含まれていた。かつてはそれが面白いものとして受け止められていた。だが、ハラスメントに対する人々の意識が高まった現代では、そんな石橋の芸風は時代遅れとみなされるようになっていた。

 もちろん、彼自身も年齢を重ねる中で、そのような時代の変化を理解して、ある程度は対応しようとしていた節もある。しかし、笑いの現場ではそういう要素を完全に手放すことはできなかった。そのことで少しずつ世間との溝が広がっていった。

 そんな石橋にとって致命傷となったのが、中居正広氏にまつわるフジテレビの不祥事である。ここでは、とんねるずの番組作りに深くかかわってきた港浩一元社長が厳しく責任を追及され、猛批判を浴びる立場となった。問題が報じられる中で、浮世離れしたフジテレビの人権意識のなさやモラルの低さが浮き彫りになった。

 フジテレビや港氏と一丸となってバラエティ番組を作ってきたとんねるずも、彼らと同じ穴の狢であると思われて、イメージを悪化させることになった。

 さらに、フジテレビの第三者委員会が公開した調査報告書の中で、あるタレントがフジテレビの女性社員の前で下半身を露出したという事案が取り上げられた。このタレントが石橋であると報じられたことを受けて、彼は所属事務所を通じて謝罪コメントを出した。ここでタレントとしては回復不可能なダメージを負った。

 もちろん、石橋貴明というタレントが完全に終わったわけではない。療養に入る前まではYouTubeでも活動を続けていたし、今でも彼を応援するファンは大勢いる。ただ、テレビやラジオのような公のメディアで活動をするのは相当難しくなってしまったのはたしかだ。時代の波に飲まれて、1人のカリスマ芸人が静かにキャリアを終えようとしているところを私たちは目にしているのかもしれない。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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