検察首脳人事に地殻変動? トップは3代続けて「東大以外」から…いまだ影を落とす“安倍政権下の騒動”とは
高級官僚そのもの
「しかし、SNSで巻き起こった猛批判や野党の徹底抗戦、黒川氏が賭けマージャンをしていたことが発覚するなど、安倍政権に逆風が吹き、法案の可決が見送られました。これで林さんは予定通り総長となったわけです」
前出の法務省中堅幹部はここまで述べると、「ただ……」と言葉を濁してしまった。前出の弁護士に問うと、こう続けた。
「実は当時の事務次官だった辻裕教氏は、林氏の子飼いでした。しかし辻氏もしょせん、宮仕えの身。安倍政権の方針には逆らえず、定年延長問題には沈黙したのです。総長の道を断たれそうになった林氏は“飼い犬に手を噛まれたような感覚だったのではないか”と、口さがない連中は噂をしていました」
辻氏は事務次官の後は東京高検検事長、そして検事総長へのステップアップが約束されていたとみられていた。しかし林総長が誕生すると、2021年夏に東京高検検事長に起用されたのは、事務次官を経験していない甲斐氏だった。辻氏は仙台高検検事長に転出し、23年1月にはさらに甲斐氏の後任に畝本氏が就く。辻氏は結局、同年7月に辞職した。幻に終わった黒川総長起用騒動の亡霊が、検察首脳人事の地殻変動を誘発し続けているというのが、大方の見方だ。
森本氏の総長就任は秒読み段階に入ったといっても過言ではなさそうだが、東京地検特捜部に在籍歴が長い弁護士は、こう語る。
「森本君が高校の先輩として敬い、目標にしていたと言われる熊(崎)さんは、大学受験に失敗して就職した後、一念発起して明治大に入り、30歳で検事になった苦労人。生まれ故郷は同じでも、似て非なる存在だ」
前出の法曹関係者がこの話を継ぐ。
「敏腕捜査官だった元特捜部長が検事総長になるのは、もちろんウェルカムです。ただ森本さんは、吉永さんや笠間さんとはちょっと違う気がします。正義を貫いて特捜検事を続けてきた延長線上で、ご本人の意志とは関係なく、検察の救世主として担ぎ上げられたのがお二人の立場で、検察官人生に終止符が打たれるまでハングリー精神を維持していた。片や検事総長候補とささやかれ始めて以降の森本さんは、法務省刑事局長として臨んだ国会での答弁もそつなくこなし、今や高級官僚そのものといった印象です。『名古屋大卒では初』といっても、ことばは悪いですが『腐っても帝大』の出身です。総長ポストに上り詰めても、特捜検事の星として放ってきた輝きが失われることがないように願っている“現場捜査派”の出身者は少なくないと思います。それに東大閥がこのまま黙っているのかも疑問です」
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