リアルな39歳独身女性に容赦なし 綾瀬はるか、ハマリ役の「終活」コメディは必見の風刺劇

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1人で死にます

 その考えを180度変えたのは遺品の中にあったピンク色の電動機器。女性用の大人の玩具だった。そうとは知らず、職場に持ち込んでしまい、同僚の松岡陽子(岸本鮎佳)にキモがられる。鳴海本人も悲鳴を上げた。この辺も現実味か。

 光子は死後も和夫に迷惑がられ、最後には赤の他人の松岡にまで不快に思われてしまった。鳴海は「1人で死にたくない」と痛感するようになる。紙に「ひとりでしにたくない」と書き、壁に貼った。ひとまず目標を立てる人らしい。

 となると結婚するしかないと考え、無料婚活アプリを始めた。松岡は「そういうのって怪しくないの」と心配したが、鳴海は聞く耳を持たない。そういう人でもある。マッチングアプリがスポンサーになっている民放ではまずお目に掛かれない場面だった。

 事実、アプリは怪しかった。登録直後に1人から連絡があったが、外国人の実業家と自称する国際ロマンス詐欺師だった。それ以外は連絡が来ない。

 鳴海は首を捻る。自己紹介欄で趣味をアイドルとしているのが「イタいのか」と思った。あるいは学芸員という職業が「得体が知れないのかも」と考えた。

 だが、どちらも違うらしい。そう教えたのは20代前半の同僚・那須田優弥(佐野勇斗)である。都庁から出向してきたエリートだ。

「山口さんのスペックで無料婚活アプリ登録しても、男こなくないですか。30代の男は20代しか行かないし、40代の男も平気で20代狙いますからね」

 厳しい。だが、ここからの言葉がもっと辛辣だった。

「そこに40歳手前で飛び込むなんて。需要がないどころか、裸で戦場に飛び込むようなものですよね」

 視聴者からの抗議など恐れていないといった場面だった。さすがは「虎に翼」で米国の原爆投下は国際法違反とする原爆裁判を再現した尾崎氏である。ドラマ全体から伝えるテーマやメッセージに自信があるからだろう。

 那須田の厳しい言葉は続いた。那須田から結婚の動機を尋ねられたので、鳴海が「将来の安心のため……」と答えると、「令和になって7年って知ってます? 結婚すれば安心って、昭和の発想でしょう」と一笑に付されてしまった。

 完膚なきまでに言い負かされたあと、鳴海は目標を変える。

 新たに「ひとりでしにたい」と書いた紙を壁に貼った。やっぱり目標を立てるのがすきなのである。ただし、光子のように孤独死するつもりはない。そのためにはどうすればいいのか? 39歳の終活が始まった。

 重いテーマばかり扱われているものの、それぞれの会話にユーモアが通底していたり、鳴海がアイドルの動画に合わせて踊りながら本音をぶちまけたりするから、全体的にポップ。綾瀬のコメディエンヌとしての才能が存分に発揮されている。

 30代から楽しめる終活ドラマである。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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