なぜ偽物の「少年ジャンプ」で荒稼ぎができるのか? 「ドラゴンボール」は380万円で落札された「連載開始号」の価値
「ドラゴンボール」がコレクター界に与えた衝撃
近年、雑誌コレクターの間で流行しているのは、人気作品の連載開始号を集めることだ。この文化を生み出したのは、鳥山明の世界的ヒット漫画「ドラゴンボール」であったと、「まんだらけ」がコメントしている。
今年開催された「まんだらけ」のオークションには、「ドラゴンボール」の第1話が掲載された「ジャンプ」1984年51号が出品され、380万円という驚異的な価格で落札された。これは、一度も読まれていないほどの奇跡的な状態の良さが決め手になったが、状態が芳しくないものでも、ネット上では30万円前後で取り引きされることが珍しくない。
それだけでなく、「ドラゴンボール」が表紙になっている「ジャンプ」に、ここ数年で急激にプレミアがつくようになった。「まんだらけ」の販売価格は、軒並み1万円を超えている。鳥山明の絵は見栄えがするため、所有欲を満たすだけでなく、飾って楽しむこともできる。コレクター心をくすぐる要素が多いのである。
この流れは他の漫画にも波及しており、前述の「ONE PIECE」や「美少女戦士セーラームーン」「犬夜叉」「NARUTO」などの連載開始号も人気が高まっている。これらは限定品でもなんでもない、日本中の書店で売られていた雑誌だ。ましてや、当時の主な漫画雑誌は数百万部を印刷していたのだから、本来なら世の中にありふれているはずである。
ところが、雑誌は読み終えた後に駅のゴミ箱に捨てられたり、資源回収に出されたりするため手元に残りにくい。ましてや、子供たちは回し読みをしたり、お菓子やジュースを飲み食いしたりしながらページをめくるため、きれいな状態で残ること自体が奇跡に近い。そのうえ、単行本のように重版されることが基本的にないため、プレミアがつくのである。
思い出の品を集めようとする人々
では、プレミアがついた雑誌を買っているのはどんな人なのだろうか。もちろん、投機目的で値上がりを見込んで購入している人もいるし、海外のコレクターも急増しているようだ。しかし、購入者の多くは、リアルタイムで「ジャンプ」を熱心に読んでいた純粋なファンであると考えられる。
今でこそ、漫画はスマホで読むのが定番になったし、雑誌より単行本派という人も多いだろう。しかし、2000年代後半までは雑誌で読むのが主流であり、「ジャンプ」の黄金期だった1980~90年代は、一秒でも早く最新号を手にしたいとワクワクしながら待っていた子供が多かった。筆者もそんな一人で、最新号を手にすると心躍ったものである。
そんな子供たちが30~40代になり、子供の頃に親しんだ思い出の品をもう一度手にしたいと思いはじめたのだ。これが、雑誌にプレミアがつくようになった理由である。80~90年代のゲームソフトが高騰しているのも同様の理由であろう。失われた品物を懐かしむという極めて人間らしい感情が、プレミアの要因になっているのである。
筆者は「ドラゴンボール」世代だし、「るろうに剣心」「ONE PIECE」「NARUTO」の第1話は「ジャンプ」リアルタイムで読んだ。しかし、雑誌は資源回収に出されてしまい、手元にない。プレミアがつくなら、保存しておけばよかった……と悔しがる人も多いと思うが、コレクターであっても何にプレミアがつくか予測するのは困難なのである。
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