トランプ氏の武力行使は“弱い相手”にだけ…「世界の警察」米国は今や昔という“不都合な真実” イラン攻撃も「功績狙い」

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軍事介入を続ければ政権基盤が揺らぐ

 イランの核施設を攻撃したことで、米国がイラク戦争のような泥沼にはまるとの警戒感が広がっている。だが、当時と異なり、トランプ政権はイランの内政に介入する意向はなく、中東地域全体が不安定化したとしても、我関せずの姿勢を取り続けるだろう。

 トランプ氏の熱烈な支持層であるMAGA(米国を再び偉大に)派が対外戦争への関与に否定的だからだ。今回の軍事作戦は“完璧に実施された外交的攻撃”と好意的に受け止められているが、紛争が長期化することになれば話は別だ。トランプ氏が功を焦って軍事介入を続ければ、政権基盤が揺らぎかねない。

 日本ではあまり知られていないが、トランプ氏はMAGA派の歓心を得るため、政権内のネオコン(米国の対外紛争への介入を主張するタカ派)勢力の一掃に努めている。

 ディープステート(影の政府)の本丸とみなされるホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)は、リストラの憂き目に遭っている。NSCを率いていたマイケル・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)も5月上旬に更迭されたが、マスコミで報道された軍事機密の漏洩がその理由ではなく、外交タカ派的な主張が問題となったとの説が有力だ。

 最悪の事態が危惧された中東情勢だが、トランプ氏は23日、「(交戦を続けるイスラエルとイランが)完全な停戦に合意した」とSNSで発表した。

 トランプ氏の賭けはひとまず成功したようだが、今回の対応が国際社会を一層不安定化させてしまうかもしれない。北朝鮮など米国と敵対する国々が“弱い相手”とみなされないよう、さらなる軍備拡張に走る可能性があるからだ。

ロシアへの制裁がもたらした代償

 中東とは対照的に、トランプ氏はロシア・ウクライナ戦争への興味を失いつつある。

 トランプ氏は17日にカナダで開催された主要7ヵ国(G7)首脳会議で、ロシアへの制裁強化に慎重な姿勢を示した。注目すべきは、トランプ氏が「制裁の実施により米国には既に巨額なコストが発生している」と述べ、制裁が米国に悪影響を及ぼすと問題視したことだ。

 21世紀に入り、米国の歴代大統領は安全保障戦略の有力な武器として、経済制裁、特に金融制裁を多用するようになっている。

 ロシアによるウクライナ侵攻後、米国は史上最高レベルの制裁を科したが、ロシア経済に打撃を与え、継戦能力を喪失させるという戦略は失敗に終わってしまった。一方、制裁を科したことで国内のインフレが高進し、ロシアでのビジネスチャンスを失うという高い代償を払った。

 米国第一を掲げるトランプ氏にとって、自国経済を犠牲にしてまで国際社会の秩序を維持する必要性はないというのが本音だろう。

 このように、トランプ氏の安全保障政策は基本的に内向きのままだ。しかも相手の強弱に応じて戦略を一変させるというあいまいさを内包している。

「世界の警察」を自認していた米国は今や昔。国際社会は一刻も早く、この「不都合な真実」と真剣に向き合うべきだ。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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