芸能と無縁の記者が押し寄せて会見混乱…「美空ひばり死去」大報道の舞台裏 “一面トップ”をめぐる大手紙の事情

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あっさりと“特オチ”を認めた朝日新聞

 現在は有名無実化しているが、日本新聞協会には印刷に回すデッドラインの時刻を申し合わせた「降版協定」がある。

〈「すでに出来ていたものと、死亡記事を入れたものと、2通り紙面を用意して待ちました。ようやく裏が取れたのは、協定の数分前というギリギリの時間。いやあ、もう冷や汗ものでした。各社の朝刊が出てから、朝日新聞さんが落ちている(編集部注:訃報を掲載していない)のを見て、どうしたんだろうな、と思いましたよ」(田中氏)〉

 協定時間を過ぎて死亡記事を突っ込んだ社があるとも囁かれた。要するに、朝日新聞は協定を厳密に守ったという話だが、朝日新聞の広報担当、秋庭武美氏(当時)は、あっさりと“特オチ”を認めていた。

〈「今回は、全くの“特オチ”です。最終的な確認がとれなかったというようなことではなく、午前1時半という時間には、情報を全くキャッチできていなかったことは確かです」〉

偉大な歌手だが「バランスがおかしい」?

 ともあれ、24日の各紙は「ひばり死去」の大報道。毎日と読売は、朝刊で一面のトップと社会面、夕刊では社会面を含めた4面を「美空ひばり」で埋めつくした。特オチした朝日も、夕刊では遅れを取り戻そうとするかのように一面トップで大見出しとカラーの写真を掲げ、他に4面もの追悼記事。

〈この大報道には、さすがのスポーツ芸能紙も唖然。「一般紙がこれほど大きくとりあげるとは思っていませんでした。スポーツ紙顔負けですよ。随分、積極的にやってくれたなあという感じです」と、報知新聞の担当者が言えば、デイリースポーツも、「本当に驚きました。一般紙があれだけ書いたから、逆にスポーツ紙も張り切ってやれたというところもありますね」〉

 大報道の背景には、「昭和が終わった89年に国民的歌手が逝った」というタイミング的なものもあるだろうが、疑問の噴出は避けられない。「どう考えても一流紙が一面トップで扱うような記事じゃない」と「週刊新潮」誌上で断言したのは、慶応大学の生田正輝名誉教授(当時)。

〈「美空ひばりが偉大な歌手であり、戦後の芸能文化に大きな役割を果たしたことは、私も認めるところです。ただ、私の言いたいのは、あの記事のバランスの問題です。一面トップにふさわしいのは、世間全般に対する影響がある場合、実際の生活に大きなインパクトを与えるような場合でしょう。一歌手の死について、あれだけ大きく扱うというのは、どうも納得できませんね。世界に目を向けて、お隣の中国情報に比べてみると、何と日本は平和ボケしていることかと思いましたよ」〉

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