配信解禁で「トランプ」伝記映画が話題 訴訟不可避…ハリウッドがビビった“配給NG”作はなぜ公開されたのか

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トランプにとって「アプレンティス」はそう酷い映画ではなかった?

 実際、コメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」を筆頭に、あちこちでパロディにされ、批判されているトランプにとって、「アプレンティス」は、そう酷い映画ではない。本人としては持ち出されたくないだろうが、実の兄への冷たい態度などについてはベストセラーとなった姪メアリー・トランプの回顧録にもっと詳しく書かれているし、最初の妻イヴァナへのレイプシーンも彼女本人が離婚の時に証言したものだ。

 アッバシ監督は、トランプをけなす目的でこの映画を作ってはいない。ただし、彼は、世の中で起きていることをわかった上で作る責任もしっかり理解していた。

「1928年にヒトラーを良い人として描く映画を作るようなことはしたくなかっただろう」

 と、彼はたとえる。アッバシ監督いわく、この映画が追求するのは、「フェアネス(公平さ)」だ。その目的は果たされているように思える。

 その分、反トランプ派からは「甘すぎる」との声も聞かれたのだが、テイラー・スウィフトをはじめとするトップクラスのセレブリティがこぞってカマラ・ハリスを支持したにもかかわらず、選挙結果がトランプ圧勝に終わったことを見ても、ことトランプに関しては、映画くらいで結果が変わるものではなかったのだ。

「この人物の何が人を惹きつけるのかを考察する必要がある」

 主演のスタンは、選挙の翌週に行われた記者会見で、その事実がわかった今だからこそ、この映画にはなおさら意義があると語っている。

「トランプを最悪の人とけなすのは簡単。実際僕もそう思っているが、その人物にも過去があり、複雑さがあるんだ。(彼が選挙で勝ったというのは)悲しい現実だが、この人物の何が人を惹きつけるのかを、僕たちは考察する必要がある」(セバスチャン・スタン)

 コーンを演じるストロングも同感だった。ドナルド・トランプを文字通り“創った”コーンについては、「ロイ・コーンの真実」というドキュメンタリーもある。

 聞きたくなくてもその名を毎日のように耳にする中、あえて“トランプもの”を見たい人がいるかどうかはわからないが、もし新たな視点と深い洞察を望むなら、そうしたドキュメンタリーから始めてみてもいいかもしれない。

猿渡由紀(さるわたり・ゆき)
神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

デイリー新潮編集部

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