配信解禁で「トランプ」伝記映画が話題 訴訟不可避…ハリウッドがビビった“配給NG”作はなぜ公開されたのか
「この映画を買うことは訴訟を買うこと」
カンヌで映画が初上映されるやいなや、トランプの選挙キャンペーンのスポークスパーソンは、映画を見てもいないのに、
「単なるフィクションで、ゴミ。トランプがホワイトハウスに返り咲くことを阻止しようとするハリウッドのエリートの妨害にすぎません」
と大攻撃した。さらには、
「フィルムメーカーのふりをし、嘘をふりまくこれらの人たちを、私たちは訴訟する構えです」
とも脅してみせたのだ。
しかし、イラン出身のアリ・アッバシ監督はまるで動じず、それどころか、
「気に入りはしないかもしれないけれども、きっと嫌うような映画でもないかと。あなたのために特別試写会を開いてあげましょうか」
とトランプにオファーまでしたのだが(トランプは答えなかった)、アメリカの配給会社に同じような度胸はない。映画祭でしばしばインディーズの秀作を買い付けては賞レースまで持っていくネオンやA24をはじめ、他社のバイヤーは、まるで動きを見せないままだった。
彼らの間では、「この映画を買うことは訴訟を買うことだ」とささやかれていたという。
トランプの報復が懸念されるなか、唯一手を挙げた配給会社
この頃まだ、ハリウッドで大多数を占める民主党支持者は、次の選挙での民主党勝利に希望を持っていたのだが(一度どうなるかを見ているのにまたトランプに入れる人が多数派になるなんてあり得ないという“常識”に、民主党支持者は頼っていた)、もしもトランプが勝ってしまって大統領になろうものなら、どんな仕返しをされるかわからない。
そんな状況に、周囲はフラストレーションと懸念を高めた。それは自己検閲にほかならず、「言論の自由」を自ら脅かす行為だ。そんな中、唯一手を挙げた配給会社がブライアークリフ・エンタテインメントだった。
業界のベテラン、トム・オルテンバーグが2018年に創設した比較的若い会社で、最初の公開作はマイケル・ムーアのドキュメンタリー「華氏119」。オルテンバーグは2016年の大統領選挙でバーニー・サンダースを支持している。
北米公開前、各アワードの投票者に向けて行われた上映会で、アッバシ監督は、「映画を見たら、きっとトランプは何か言ってくるでしょう。その時が今から楽しみです」と、またもや余裕を見せていた。
しかし、意外にもトランプは何も言ってこなかったのだ。前評判のわりに映画がまるでヒットしなかったことから、騒ぐまでもないと思ったのか。あるいは、アッバシ監督が言ったように、「気に入りはしなかったが嫌うほどの映画でもなかった」のか。
次ページ:トランプにとって「アプレンティス」はそう酷い映画ではなかった?
[2/3ページ]


