親日・料理上手・最新作「メガロポリス」の酷評にも平然…字幕翻訳家「戸田奈津子」が語る「天才コッポラ監督」の“頭の中”

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コッポラ監督が日本好きの理由

 ――コッポラ監督は日本がお好きなんですか?

 大好きですよ。お正月に京都の旅館に滞在して、おせちを食べたり初詣したりしていたことも。日本は彼には異質文化の国だから、それを知りたいという好奇心があったんだと思いますね。

 彼が日本に来る時は、私が案内係みたいなことをしていたんですが、とにかく何でも自分の目で見たいという人。例えば、その当時の最新技術、NHKが細々と開発していた「ハイビジョン」を見るために、成城にあったちっぽけな研究所には何度も通いました……50年前ですよ? 私なんてハイビジョンの「ハ」の字も知らない(笑)。

 一方で研究者たちは「ゴッドファーザー」もコッポラも知らない、この人誰? という感じでしたが、彼の質問があまりにプロフェッショナルでしょ。大阪弁の研究者が一人いたんだけど、「この人、よう知ってはりますなあ」なんてびっくりしちゃって。そのうちに彼の正体を知り「サインください」なんて言い始めたんだけど、なんと彼らはNHKの上の人には巨匠の訪問を全然報告してなかったんです。後ですごく怒られたらしいです(笑)。

 いろいろ調べるのは大変でしたけど、いろんな世界があることを知ったのは面白かったですね

「メガロポリス」は「見たことがない映画」

 ――映画「メガロポリス」の感想を聞かせてください。

 もう半世紀も昔ですが、「地獄の黙示録」の撮影現場で、将来に撮るつもりの作品として「メガロポリス」の話をしていらしたんです。内容は概念的な段階でしたが、タイトルはすでにおっしゃっていたので、完成したのは本当によかった。

「メガロポリス」にはいろいろな要素が盛り込まれていますが、つまりは彼の身の回りのことや、常日頃考えている妄想的、幻想的なものを吐露した作品なんです。天才の頭の中なんて計り知れないから「理解できない」という人も多いでしょうが、「今まで見たことがない映画」という点はみんな同じ。これだけ多くの映画が作られてきた中で「見たことがない映画」を作るなんて、やっぱりすごい人だと思います。

 ――戸田さんにとって最も印象的だったのはどの部分でしょうか?

 去年、この作品がカンヌ国際映画祭で初上映された後に、フランシスがプライベートで来日したんですね。カンヌでは賛否両論が噴出したと聞いていたのに、彼は全然気にしてないんですよ。「『地獄の黙示録』を見ろ。公開当時は“理解できない”と酷評されたが、今では名作として歴史に残っている。この作品も絶対にそうなる」って。

 そして「人々が理解できないような未知のものを作ることが、私が自由であることの証だ」と。カッコいいこと言うな、さすがフランシス! と思ったんですが、字幕を作っている最中に気づいたのは、同じような言葉――「未知の世界に飛び込む、それが自由の証だ」が、映画の中でも何度か繰り返されているんですね。彼は映画の中のセリフをそのまま言っていた、そのことに非常に感銘を受けました。

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