生誕100年「ポール・モーリア」いまだ褪せない楽曲の魅力とは 大ヒット曲「恋はみずいろ」に秘められたエピソード

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音楽に「品格」があった理由

 さらに《恋はみずいろ》についていえば、最初の主題がピアノ+チェンバロで弾かれ、繰り返す際はおなじ旋律を「オーボエ」が奏でる。これまた、ヨーロッパ特有の古典的楽器である。イージーリスニングならではのストリングス(弦楽器群)が主旋律で登場するのは、ようやく、そのあとだ(ラヴェル《ボレロ》も似た構成だった)。間奏でもチェンバロがアルペジオ(分散和音)を弾くが、これも当時としては実に新鮮だった。こんなイージーリスニング曲は、それまで誰も聴いたことはなかった。そのため、《恋はみずいろ》は、まるでポール・モーリアのオリジナル曲であるかのような誤解さえ、生まれるのである。

 そのほか、チェンバロが印象的なポール・モーリアの曲としては――先述の《涙のトッカータ》を筆頭に、金子由香利がうたったシャンソン《再会》。ワインのCMに自ら出演して「一杯のメルシャンから、このメロディが生まれた」と語った自作曲《そよ風のメヌエット》。松旭斎すみえが使用して以来、マジック・ショーの定番BGMとなった《オリーブの首飾り》。TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」テーマ曲として、長年流れていた《はてしなき願い》。ほかにも《薔薇色のメヌエット》《ペガサスの涙》など、枚挙に暇がない。

 ポール・モーリアの編曲・演奏には、品格があった。どんなに激しい曲想でも、常に落ち着きがあり、耳にやさしく、何度聴いても飽きなかった。なぜだろうか――彼の音楽の基本には、クラシックがあった。コンセルヴァトワール時代、音楽の基礎をきちんと学んでいた。尊敬する作曲家は、自国のモーリス・ラヴェル。「あらゆる編曲は、ラヴェル《ダフニスとクロエ》ですでにおこなわれています」、「ベートーヴェン《ヴァイオリン協奏曲》の冒頭3分間には、すべてが集約されています」といった主旨を語っている。

 2006年11月3日、急性白血病により逝去。享年81。日本へは、1969年以来、いくつかの年を除いて、1986年まで、ほぼ毎年のように来日した。最後の来日は、1998年11月29日、大阪フェスティバルホールにおける「さよならニッポン ポール・モーリア・ラスト・コンサート」。最後の曲は《オリーブの首飾り》、そして観客と一緒にうたった、ベートーヴェンの《喜びの歌》だった。

 今年の生誕100年を超えても、そのサウンドは、それこそラヴェルやベートーヴェンとならんで、永遠に愛されつづけるにちがいない。

富樫鉄火(とがし・てっか)
昭和の香り漂う音楽ライター。吹奏楽、クラシックなどのほか、本、舞台、映画などエンタメ全般を執筆。東京佼成ウインドオーケストラ、シエナ・ウインド・オーケストラなどの解説も手がける。

デイリー新潮編集部

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