「事務所を辞めたらテレビに出られなくなる」という脅し文句が通じない 「個人事務所」が増えたワケ

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あえて「フリー」で

 かつての芸能界では、事務所を辞めたタレントが「干される」ということもあった。所属タレントが安易に独立してしまうことを防ぐために、出演先や移籍先に圧力をかけて、出演や移籍ができないようにする、ということが公然と行われていた。

 しかし、最近では、公正取引委員会が芸能事務所のそのような動きは「優越的地位の濫用」にあたり、独占禁止法に違反するという見解をまとめたことで、業界の空気が変わってきた。少なくとも、あからさまに圧力をかけられるようなケースは激減している。

 一昔前の芸能界でそういう慣習がまかり通っていたのは、芸能人が有名になるための手段がテレビに出ることしかなかったからだ。テレビの影響力が大きい時代には、そこに出るために事務所に所属するというのが唯一の選択肢だった。

 しかし、現在では、芸能を志す人間が自分を表現するための場所はテレビ以外にもたくさんある。「事務所を辞めたらテレビに出られなくなる」という脅し文句が通じなくなっている。

 もちろん、最近では既存の芸能事務所もYouTubeをはじめとする新しい形の芸能活動のサポートをしようとはしているのだが、それが一番の得意分野というわけではないので、どうしてもタレントと足並みが揃わないことはある。そういうことがきっかけで芸人たちは自らの足で歩くことを選んでいく。

 個人事務所芸人の多くは、最初は大手事務所に入って活動を始めて、そこから独立して個人として仕事をするようになっている。ただ、最近ではラランドのように、最初から大手事務所に入らずに個人で活動をスタートさせるケースも出てきている。

 アマチュア時代に「M-1グランプリ」で準決勝に進んで頭角を現したラランドは、あえて既存の芸能事務所に所属せず、フリーで活動する道を選んだ。現在は独自の路線で活動を続けて、多くのファンに愛されている。彼らは生粋の個人事務所芸人として新しい芸人の生き方を示したと言える。

 テレビ界や芸能界が変わるのに伴って、芸人のあり方も変わってきた。今後は個人事務所芸人がさらに増えていくだろう。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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