27歳女性変死「疑惑のベルギー人神父」が現れた羽田空港“緊迫の15分間” 通報した出国審査官に警察が放ったまさかの言葉【昭和の未解決事件】
警察が「そっちで処理してくれ」と
そこへベルメルシュ神父が現われたんです。無言でした。神父とわかるような僧服ではなかったように思う。私はその人物が、たしかにベルメルシュ神父であるか確認するとともに、咄嗟に電話のダイヤルを回した。指定どおり最初は検察庁でした。が、相手が出ない。
大急ぎで私は、次に蒲田署空港支署に通報をした。ところがです。警察の返事が、“出国はあんたの役所の管轄だ。そっちで処理してくれ”です。こんな返事を誰が予想しますか。
一方、エール・フランスの係員は“早くしてくれ”といってくる。私はそれもこれも一時制止して、空港支署へ駆けつけた。
その結果、警察の回答は――むろん、空港支署の係官も警視庁に連絡したりして大へんだったが逮捕状が出ていない以上、そのまま出国するのを認めざるを得ないということでした。
入管を通過して行く際は小走りだった
私はなにも手柄話をしたいんじゃなく、私個人の事情をいえば、私もクリスチャンです(編集部注:プロテスタント)。派が違うとはいえ神父を疑いたくない。
しかし、この際はおのれより役目が大事と思ったのに……入管を通過して行くベルメルシュ神父は、そのまま小走りで飛行機のほうへ進んで行きました。
〈当時の警視庁新井裕・刑事部長(のち警察庁長官。現日航顧問)の談話と、いまの新井氏の話をつけ加えておく。〉
「本人に対する逮捕状が出ていないため、出国を強制的に拒否するわけにゆかず、出国後入管から“出国した”と本部に連絡があった」(当時)
「出国を阻止できないのがわかっていながら、なぜ入管に手配したかというと、ま、その場で本人が出国を思いとどまるかもしれないという一種の“けん制”ですな」(現在)
〈つまり、警視庁に捜査する気持があったのかなかったのか、と思われてくるような話なのである。〉
(「週刊新潮」1971年1月9・16日号「ベルメルシュ神父日本脱出『羽田の十五分』」より)
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羽田空港からベルギーに帰国したベルメルシュ神父は、再びカナダの教会に赴任。2017年3月17日に96歳で死去し、カナダの地に葬られた。
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