「几帳面にせっかちと、芸と同じ性格」「人をからかう話題や下ネタは言わなかった」 昭和のいる・こいるの知られざる“素顔”

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 物故者を取り上げてその生涯を振り返るコラム「墓碑銘」は、開始から半世紀となる週刊新潮の超長期連載。今回は5月24日に亡くなった昭和のいるさんを取り上げる。

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「へーへ―ホーホー」

「昭和のいる・こいる」の漫才は摩訶不思議だった。

 のいるさんが「しつけというのは大事ですね」などと世間話をゆったり始めると、ボケ役のこいるさんは、相方の言葉にかぶせるように早口で「あーそうだな。よかった、よかった、よかった」と適当に相づちを打つ。

 のいるさんが話を進めると、今度は「しょうがねえ」を連発。「だめだ、だめだ、そんなもんだよ、しょうがねえ」とたたみかける。

 茶化しているのか「ヘーヘーホーホー」と発するこいるさんに、のいるさんは、中身のある受け応えをしろと怒る。「はい、はい、はい、はい」と言いながら頭を垂れ、両手を上下に動かし、これまた適当に笑顔で謝るこいるさん。気が利いた言葉でつっこみ、場をまとめるのは、のいるさんだ。

貫いた芸風

 作家で演芸に造詣の深い吉川潮さんは言う。

「何をしゃべるのかではなく、話を受け流す姿で笑いを取るとは大したものでした。こいるさんのとぼけた印象が強いかもしれませんが、のいるさんの真面目な味わいがあってこそ。二人の呼吸、間合いが絶妙なので話を遮る展開でも嫌みが全くなくて笑える。二人が現れると和やかな雰囲気になり、老若男女を問わず人気がありました」

 こいるさんの適当な相づちの打ち方次第で、のいるさんは話の方向を変えていた。細かい打ち合わせをしたらつまらない、自分たちも毎回楽しまないとお客さんに伝わらない、との考えだ。

 演芸・演劇評論家の矢野誠一さんは振り返る。

「二人の楽しい絡(から)みという漫才本来の芸がありました。漫才は相方との戦いです。笑いが取れれば何でもいいと芸を崩すのは楽なんですよ。のいる・こいるは安易な道を選ばず、すれ違いのおかしさであっても対話の形を貫いていた」

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