マスクvs.トランプでテスラ株が17%暴落でも「売るな」 投資家が期待する「物理AI」事業とは

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株価急落でも テスラのビジネス拡大は止まらない

 NHTSA(米運輸省道路交通安全局)は、今年4月に自動運転車に関する一部の報告義務を緩和する方針を示しており、これはロボタクシー実用化に向けた「環境整備の一環」と受け取られています。

 たとえトランプ政権がイーロン・マスク氏と個人的に対立したとしても、米国として「物理AI」推進という大きな国家戦略を止めることは難しいでしょう。

 なぜなら、AIにおけるグローバルな覇権争いでは、ChatGPTのような言語モデル(ソフトAI)だけでなく、実際にモノを動かす「物理AI」での優位性も不可欠だからです。

 感情的な言動が目立つトランプ大統領ではありますが、最終的には国家利益を優先し、「物理AI」分野の発展を後押しする可能性が高いと見られています。米国がAI競争、また宇宙競争で中国に後れを取らないためにも、テスラの自動運転技術やSpaceXは戦略的に重要な位置を占めているのです。

 今回の株価の急落についても、テスラの本質的価値が損なわれたとは言えません。テスラの製品力、技術的優位性、AIとのシナジーという成長軸は、今も力強く機能している訳です。

 あくまでも、今回のテスラ株の下落は、企業の実態を反映したものというよりも、感情的な反応が先行していることは明らかです。事実、14%の急落を記録した翌日には3.7%の反発を見せており、市場が冷静さを取り戻しつつあることを示唆しています。

 11日には、マスク氏がXでの一連の投稿に「行き過ぎがあり後悔している」と明かしました。

 トランプ大統領とイーロン・マスク氏の関係については、まさに秋の空のように予測困難ではあるものの、両者にとってこれ以上の対立は得策でないという計算が働き始めている可能性があります。政治的思惑と企業の利害が複雑に交差するなかで、最悪期はすでに通過したのではないでしょうか。

 長期投資家にとって大切なことは、短期的な政治リスクに一喜一憂することではなく、テスラが構築を進めている「物理AIプラットフォーム」のビジネスモデルと、その拡張性に対する信頼です。

 この分野で主導権を握ることができれば、テスラは単なるEVメーカーから、次の10年を牽引するテクノロジー企業へと脱皮する可能性を秘めています。今はその分水嶺に立っているのだと思います。

【著者の紹介】
岡元兵八郎(おかもと・へいはちろう)
マネックス証券の専門役員。専門である外国株のチーフ・外国株コンサルタントのほか、マネックス・ユニバーシティ投資教育機関のシニアフェローも務める。元Citigroup/米ソロモンブラザーズ証券のマネージング・ディレクター。外国株に30年以上携わるプロフェッショナルで、関わった海外の株式市場は世界54カ国を数える。海外訪問国は80カ国を超える。米国株はもちろんのこと、新興国の株式事情にも精通している。ニックネームは「ハッチ」。Xアカウント名 @heihachiro888

デイリー新潮編集部

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