マスクvs.トランプでテスラ株が17%暴落でも「売るな」 投資家が期待する「物理AI」事業とは
SNSでの応酬が、宇宙計画や国家安全保障にまで影響
マスク氏の発言に対してマーケットは敏感に反応しました。6月5日木曜日、一連の騒ぎをうけすでにテスラ株は高値から7%下落していましたが、「エプスタイン・ファイル」発言の直後にさらに14%も急落。投資家の間ではマスク氏は「ついに一線を越えた」との見方が広まりました。
ただ、株価が下がったのはテスラ株だけではありません。この日トランプ大統領が筆頭株主であるトランプメディア株(DJT)も8%下落したのです。
「エプスタイン・ファイル」発言後、トランプ氏は激怒し、反撃に出ます。
「テスラへのEV補助金は廃止する」
「マスクが率いる企業との政府契約も打ち切る」
と、経済的打撃を示唆する強硬姿勢を見せたのです。
2人の戦いはさらにエスカレート。次にマスク氏が突如Xで表明したのが、「SpaceXの『ドラゴン宇宙船』を即時退役させる」という衝撃的な発言です。
この「ドラゴン」とは、マスク氏の宇宙企業SpaceXが開発した有人宇宙船で、正式には「クルー・ドラゴン」と呼ばれるモデルです。NASAと協力し、アメリカ本土からの有人宇宙飛行を約10年ぶりに復活させた実績を持ちます。
2010年の初打ち上げ以降、2020年にはNASAの宇宙飛行士をISS(国際宇宙ステーション)に送る任務を成功させ、米国の有人宇宙計画の中核を担う存在となりました。
つまり、これは単なるSNSでの応酬ではなく、国家の宇宙計画と安全保障の問題にまで波及するリスクを内包した発言だったのです。
そうした中、X上ではフォロワーがごくわずかの無名ユーザーがマスク氏に対し「数日間、冷静になるべきだ」との呼びかけたことが話題に。珍しくマスク氏本人もこの助言を受け入れ、「ドラゴン退役は撤回する」と投稿し、事態は一時的に沈静化へと向かいました。
テスラはEV企業から「物理AI」企業へ
6月12日、テスラはテキサス州オースティンで自動運転の「ロボタクシー」のサービス開始に関するイベントを開く予定です。
マスク氏が前回の決算発表の際に語ったところによれば、Model Yをベースとした自動運転車10台が、都市内でエリアを限定し試験的に運行される予定です。
当然運転手はいないものの、遠隔オペレーターによる安全監視が実施される見込みです。これはすでにサンフランシスコなどの都市で展開されているアルファベット傘下の「ウェイモ」と同じシステムです。
長期的に見れば、ロボタクシー市場はテスラとウェイモの二強に集約される可能性が高いと考えられます。ウェイモは現在、週25万件以上のライドを提供しており、LIDAR(レーザーを用いた計測技術)を搭載した高性能車両によって精度と安全性を追求していますが、1台あたり15万ドル(約2150万円)のコストがネックです。
対してテスラは、自社製のModel Yをベースにしたロボタクシーを3.5万ドル以下、将来的には2.5万ドル以下で提供する計画です。コスト構造に大きな優位性があり、スケーラビリティの観点ではテスラがリードしていると見るアナリストも増えています。
ただし、今回の発表は、商用レベルの大規模展開ではなく、初期段階のパイロットプログラムと位置付けられます。そのため、目先の収益への寄与は限定的ですが、テスラが「電気自動車メーカー」から「物理AI」企業への進化を遂げる重要な転機としては大切なイベントとなります。
マスク氏自身は「数か月以内に1000台規模に拡大する」と自信を見せていますが、問題は政治です。連邦政府がこの自動運転サービスの拡張にどこまで寛容かが、今後の命運を握ることとなります。
そうした背景もあり、投資家の“パニック売り”が膨らんだわけですが、こうした動きは市場の一時的な混乱に過ぎず、冷静に受け止めるべきでしょう。
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