朝から「半額シール」で行列ができる謎のスーパー 「勝ちすぎてはダメ」の生存戦略とは
客も市場も店も生産者も「ウィン‐ウィン」の関係に
お客が殺到する光景が当たり前という店もある「おっ母さん食品館」だが、岩本社長には「決して店だけが勝ち続けてはならない」という持論もある。
「お客さんも私ら店も、そして市場、生産者も、みんながウィン‐ウィンでなければ、ビジネスモデルとしては成功しないんです。1週間のうち、7回勝負して全勝、つまり店だけがいいとこ取りできるような価格で売り続ければ、お客さんは離れていく。もちろん全敗すれば店の経営は成り立たないし、意味もなく値引けば、『安かろう悪かろう』の印象を持たれかねない。負ける日があってもいいし、引き分けでもいい。でも7回勝負したら1回は勝たせてもらえ、と各店には言っています」
ドラッグストアとのハイブリッド型で
もともとは、日配品も含めた品ぞろえで直営店を展開してきたが、2018年末から「クリエイトエス・ディー」が運営するドラッグストア「クリエイト」と売り場を一体化させた店舗を始めた。魚介類や野菜、肉、一部総菜などを「おっ母さん食品館」が、残りの日配品や薬品などを「クリエイト」が担う売り場作りだ。
「うちのような中小企業が大手のスーパーマーケットやドラッグストアの向こうを張って戦っても勝てない。ならばどうやって生き残るのか。共同店舗出店について、創業者は反対していましたが、会社を引き継いだオーナーと『やるだけやってみよう、ダメならやめればいい』と話し合って決めました」
狙いが奏功したのは、先に述べた盛況ぶりを見れば明らか。当初こそ、店の入り口からはしばらく「クリエイト」の売り場が続くため、奥まで行かないと「おっ母さん食品館」にたどり着かないことが懸念されていた。だが、今では買い物カートの上下にふたつのかごを載せ、薬品や家庭用品と、生鮮食品を別々に入れて店内を回る客の姿が目立つ。
もともと北柏店は別の場所でスーパーとして単独で運営していたが、当時は倉庫のような売り場で通路も狭く、商品が所狭しと積み上げられていたために買い物を楽しめる状況ではなかったそう。現在の店舗は買い物がしやすいと好評だ。
岩本社長によると、共同店舗と同様の面積の店を自前で用意するのに比べ、初期投資は大幅に抑えられることになるという。現在展開する14店舗のうち、9店舗がクリエイトとの共同。今後もしばらくはこうした出店が続きそうだ。
安売り→評判を呼び→多くの客来店→また安売りのループ
現在は「単独で出店する時期でない」と岩本社長は認識しているものの、「おっ母さん食品館」の旗艦店ともなっている北千住店は単独の店舗だ。自動車のショールームだった物件を居抜きで改装したという。こうした“出物”が数多く出れば、直営店の出店増につながる可能性は大いにある。
「搬入口とトイレさえある物件ならば、バックヤードのスペースを確保してカスタマイズし、店にできますからね」
市場での直接仕入れをはじめとする各店舗に権限を任せた販売戦略によって「なんで混んでるの?」「安いね」「面白いね」と評判を呼び、さらなる客が集まる。それが新たな安売りへとつながっていく。そうしたサイクルを繰り広げながら、さらなる多店舗展開も見据える「おっ母さん食品館」。物価高の世相の中で、より多くの支持を集めることができるか。
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