徴兵制も視野…「強いドイツ」は復活するのか 新首相の足を引っ張る“絶不調の経済”と“極右政党寄りの移民政策”
移民の取り締まり強化が躓きの石に
経済立て直しの道筋が不透明なことに加え、政治情勢の不安定さも気がかりだ。
厳格な移民政策を訴える右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は2月の総選挙後の世論調査で支持率が第1位となった。だが、ドイツの連邦憲法擁護庁(公安組織)は5月2日、AfDを「右翼過激派組織」と認定した。現在はAfDの仮差し止め申し立てを受けて保留となり、裁判所の判断が出るまではこれまで通り「疑わしい案件」に分類される。
メルツ氏は、AfD支持の有権者1000万人の活動を禁止することは不可能との見解を示しており、この認定が覆る可能性は高いと筆者は考えている。
いずれにせよ、移民問題はドイツ政界を揺るがすホットイシューだ。ドイツ政府は5月28日、一部の移民の家族呼び寄せを制限し、国籍取得の規制を厳格化する計画で合意した。
移民の取り締まりはメルツ氏が総選挙で掲げた主要公約の1つだ。今月の首相就任直後には国境管理の強化に着手しているが、移民の取り締まり強化は躓きの石になる危険性がある。
SPD左派の不満で連立政権が揺らぐ
メルツ氏は6日に実施された連邦議会の首相指名選挙で、一度落選するという屈辱を味わっている。連立政権に属する328人の議員から18人の造反者が出たからだ。
秘密投票のため詳細はわからないが、SPD左派の議員が多数造反したとの見方がもっぱらだ。メルツ氏の移民政策がAfD寄りであることが造反の理由だと言われている。
ドイツでは移民による犯罪が多発している。昨年、外国生まれの女性イスラム教徒の暴力犯罪発生率がドイツ人男性を上回るという統計結果が出たほどだ。
メルツ氏は今後も移民の取り締まりを強化していくだろうが、SPD左派の不満が限界に達すれば、連立政権が大きく揺らぐことになりかねない。
経済や政権基盤を安定させない限り、メルツ氏の野望である「強いドイツ」は絵に描いた餅に終わってしまうのではないだろうか。
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