韓国で始まる「反日」よりも深刻な「報復」の時代 “保守派は監獄送りで根こそぎに”宣言の李在明大統領――鈴置高史氏が読む
「民主的専制」の門の前に立つ
――韓国は民主化以前に戻る……。
鈴置:保守からは「専制の復活」に懸念を表明する声があがっています。例えば、嶺南大学のキム・ヨンス教授が朝鮮日報に寄せた「[朝鮮コラム]民主主義を破壊する国民主権の逆説」(6月1日、韓国語版)です。
「国民主権」の名の下にやりたい放題の李在明氏を厳しく指摘した寄稿で、最後にこんなくだりがあります。
・韓国の民主主義は独裁を経て1987年に民主化に成功したが、今は民主主義が民主主義を破壊する「民主的専制」の門の前に立つ。
いわゆる「軍事独裁」時代の方が、これからの韓国よりもましかもしれません。1987年の民主化以前でも行政と司法は軍部が握っていましたが、立法――国会は文民政治家の活躍の余地がありました。「李在明専制」時代では三権すべてを左派が完全に掌握するのです。
――韓国はなぜ、こんな国になってしまったのでしょうか。
鈴置:左派は、保守派が昨年12月3日に非常戒厳令を宣布したのがきっかけだ、と言うでしょう。確かに戒厳令が完全に実行されれば李在明氏をはじめ左派の主要人物は監獄にぶち込まれていました。
もっとも保守派は、左派が国会で多数派を占めたのをいいことに行政安全部長官、放送通信委員長、ソウル中央地検長、監査院長ら22人を手当たり次第に弾劾し、国政を妨害したのが戒厳令の理由だと主張します。
左派の弾劾攻撃も、保守の戒厳令も「やり過ぎ」なのです。法律的には可能であっても、常識外れのことをすれば憲政は崩れてしまいます。
指揮権発動にも危機感なし
――なぜ、「やり過ぎ」が横行するようになったのでしょうか。
鈴置:身も蓋もない言い方をすれば、韓国には「憲政の常道」が根付いていないのです。文在寅政権時代には指揮権を3回も発動して検察の捜査を妨害しました。
ちなみに、その時の検事総長は尹錫悦氏でして、指揮権発動は違法だと国会で非難しています。三権分立を破壊する指揮権発動に比べれば、国を救うための戒厳令宣布を非難される筋合いはない、と尹錫悦氏は思っているに違いありません。
興味深かったのは当時、指揮権発動を民主主義の危機と捉える韓国人がほとんどいなかったことです。「法律的には可能でも、安易にやってはいけないことがある」という常識が韓国にはないのです。
これから始まる「李在明専制」に危機感を募らせるのは一部の保守だけ。民主主義の主導者を自任する左派系紙のハンギョレが、今こそ三権分立の崩壊に声を挙げてもいいはずですが、紙面は「李在明への声援」で埋め尽くされてきました。
李在明氏当選を受けての各紙社説(6月4日)が象徴的でした。朝鮮、中央、東亜の保守系3紙は、報復を自制し国民の統合を目指すよう李在明氏に訴えました。
しかし、ハンギョレは「『内乱審判』の民心を得た李在明大統領、『新しい大韓民国』を開け」(韓国語版)で「内乱を起こした尹錫悦はもちろん、韓悳洙前首相らこれを助けたり、協力した疑いのある人々は徹底的に捜査し、適切に処罰せねばならない」と主張したのです。
「憲政の常道」は根付かない
――韓国にはいつになったら「憲政の常道」が根付くのでしょうか?
鈴置:未来永劫に根付かないのではないか、と思うようになりました。激しい国内対立が「憲政の常道」を壊し、それがまた対立を激化させる――悪いスパイラルに陥っている。
というのに韓国人は自ら嵌った罠に気が付いていない。民主主義が音を立てて崩壊している最中、「日本を超えた民主主義」を誇る……。『韓国消滅』第2章「形だけの民主主義を誇る」でこの奇妙な人々をじっくりと掘り下げています。
――日本のメディアは李在明政権がいつ反日を仕掛けてくるかばかりを気にしています。
鈴置:問題はそれ以前にあります。形だけでも海洋勢力側に留まっていた韓国が、これから内部崩壊していく可能性が高いのです。
「新政権の韓国にどう向き合うべきか」との質問をしばしば受けますが、それは愚問です。「向き合う」も何も、相手が自ら崩れて行くのですから。
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