血まみれシャツの学生が「奴らは3歳の赤ん坊を撃った」…「天安門事件」から36年 日本人記者が目撃した“発砲と流血の現場”

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歌を歌う女性

 4日午前9時ごろ、人民大会堂東門の階段のなかほどに、20代くらいの若い女性がナップサックに腰を掛けて、なにやら歌を歌っているのを見た。声が高くなったり、低くなったりして、よく聞き取れないが、何かの民謡か、唱歌のようだ。北京語ではなく、地方の方言のようにも聞こえる。その声が人民大会堂の建物に跳ね返り、こだまして、悲しそうに聞こえている。彼女は目の前の兵士の一団を見据えており、その歌は兵士を咎めているように聞こえる。歌うのを止めよという警告なのか、時おり、軍用トラックのクラックションが鳴り響く。だが、だれも彼女を連れて行こうとしない。

 兵士と彼女のにらみ合いが続く。彼女の声の様子や、遠くからしか見えないが、その表情をみていると、どうも彼女は精神的に異常をきたしているように感じた。広場での惨劇を目の当たりにして、心に変調を起こしてしまったのかもしれない。

 事件から36年経ったいまも、この情景が目に浮かぶ。「彼女は、その後、どうなったのだろうか。いまどうしているのだろうか」―。いまでも気になっている。

【前編】では、筆者が北京入りしてから、「軍の銃撃で多数の市民が負傷している」との一方を聞き、現場に駆け付けたところまでを記している。

相馬勝(そうま・まさる)
1956年生まれ。東京外国語大学中国語科卒。産経新聞社に入社後は主に外信部で中国報道に携わり、香港支局長も務めた。2010年に退社し、フリーのジャーナリストに。著書に『習近平の「反日」作戦』『中国共産党に消された人々』(第8回小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞)など。

デイリー新潮編集部

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