銀座に店を構えた「女性寿司職人」に世界が注目! 「女性には不向き」の俗説を覆してフランスのドキュメンタリー映画で主演に抜擢されるまで

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「薬膳サーモン」をプロデュース

 ただ、持ち前のポジティブ思考で、千津井さんはこの時、決して落ち込んでなどいなかった。なでしこ寿司の営業が傾く以前の2021年1月、水産会社「BKTC」を立ち上げ、出張寿司職人として活動を開始。2022年末になでしこ寿司は惜しまれながら閉店したが、なでしこ寿司時代に発案した「薬膳寿司」の延長で、新たな養殖魚のプロデユースも手掛けた。

 ちなみに、薬膳寿司とは、松の実やナツメグなど、体に良いとされる食材を調味料に使った創作寿司。さらに、こうした数種の薬膳食材を日本人が大好きなサーモンの餌に使って、寿司ネタを生産しようというのが、“薬膳サーモン”プロデュースのきっかけだった。北海道上川町と白老町の養殖業者の協力を得て、今年は昨年の10倍以上に当たる35トンの生産を目指すという。

 薬膳サーモンは、尿酸値の上昇を抑える働きが報告されているアンセリンを豊富に含んでおり、消費者庁に届け出た上で機能性表示食品として各地に出荷している。

寿司業界の「ジェンダー平等」に一石

 そうした仕事をこなしつつ、今春、遂に銀座6丁目に完全予約制の「鮨 千津井」をオープンさせた。薬膳サーモンのほか、築地や豊洲で仕入れた選りすぐりのネタを揃え、なかなかの人気ぶり。自慢の創作寿司「ミルフィーユ寿司」も提供するなど、自ら築いた城で「スシアート」の技術を披露する。

 今でも「寿司ではなく、女性(が握ること)を売りにしている」など、批判されることも少なくないという千津井さん。今後は「サーモンだけでなく、ウナギやウニなどにも薬膳を与えて育てる『薬膳魚』を売りに、国内だけでなく欧米など海外進出も視野に、新たな女性職人の活躍の場を広げていきたい」と意欲をにじませる。

 薬膳を活用した創作寿司を含めた寿司作りの「芸」を目一杯披露する千津井さん。彼女のパフォーマンスは、「ザギンのスーシー」のみならず、日本の寿司業界のジェンダー平等に新たなページを刻んだであろう。

川本大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長。1967年、東京生まれ。専修大学を卒業後、91年に時事通信社に入社。長年にわたって、水産部で旧築地市場、豊洲市場の取引を取材し続けている。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)など。最新刊に『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文春新書)。

デイリー新潮編集部

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