最終回で真っ白に燃えつきた「あしたのジョー」はどうなったのか? 「ちばてつや」を歓喜させた“法医学者”の「まだ生きていますよ」
キャラクターの気持ちに入り込む
「人間はね、いくら好きになっても、ちょっとした言葉のやり取りで、気持ちがすーっと擦れ違ってしまうことがある……私はそれを描きたかったんです。この時のジョーもそう。紀子が本音をぶつけてきているのに、ジョーは真っ直ぐに答えずに、自分の持論を述べてしまう。それで紀子は“あ、この人にはついていけない”と思っちゃう。よく話し合えばもっと気が合って理解し合えるのだけれど、たったそれだけのことで……人間はそういうものだよということを描きたかったんですよ」
その後、ボクサーを引退した西は、誠実な人柄と働きぶりが認められ、林食料品店の正社員となり、紀子と結婚する――。
ところで、この紀子やジョーの周りにいるドヤ街の子どもたちは、梶原さんの原作には登場しない。ちばさんが創作したキャラクターだという。
「梶原さんの原作は、ボクシングのテクニックだとか、興行や裏社会の人間関係とか、物凄く面白いんですよ。緊張感が張り詰めていてね。ただ、ずっと緊張したままだと、私が疲れちゃうんでね(笑)。梶原さんとは何度も打ち合わせをして、了解をとった上で、新しいキャラクターやエピソードを描いていました。梶原さん? そうだね、みんな怖がっていたけど(笑)。体も大きいし、夜でもサングラスをかけて真っ白なマフラーを首からかけてね(笑)。でも、ガキ大将がそのまま大きくなったような人で、私はうまくお付き合いできましたよ。歳も近いし、話せばわかってもらえる人でしたし」
この林食料品店にはモデルがある。第1回で紹介した、引き揚げ後にちばさんの両親が開いた乾物屋で、主人はちばさんの父親をそのまま描いたという。そして、
「母親の方は、少し優しい人に描きましたけどね(笑)」
連載中、キャラクターが夢の中に出てくることがあったという。ジョーに限らず、松太郎でも鉄兵でも、構成やコマ割りで悩んでいるとふと、「ここでこういう言い方するかな?」と考え込んでしまう。すると、
「そのキャラが夢に出てくるんですよ。漫画を描いている人はみんなそうじゃないですか。それくらい、キャラクターの気持ちに入り込まないと。例えばジョーの連載中、ライバルの力石徹が減量で苦しむ展開の時、どんな気持ちでいるのかな、水を飲みたくないのかなと考えているうちに、自分が食べられなくなってしまいましてね(笑)。家族やアシスタントが何とかして食べさせようとしてもダメで。結局、その展開が終わるまで、私も力石と一緒に減量していました。あんな経験はジョーだけですね」
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