トランプ氏の「大型減税」予算案で犠牲となるのは「米国債と労働者」か…MAGA支持者の不満が招く“反ユダヤ主義”の台頭に要注意
米クレジット市場からは警戒シグナル
気がかりなのは、米国債市場でヘッジファンドが存在感を高めていることだ。
米連邦準備理事会(FRB)によれば、ヘッジファンドの米国債保有残高は過去10年間で10倍超となり、そのシェアは2%から10%に急上昇した。昨年末の保有残高は2.6兆ドル(約372兆円)と日本全体の2倍に匹敵する。
プレゼンスを増大させたヘッジファンドが、債券自警団と化して米国債売りを本格化させれば、米国を始め世界の金融市場が大荒れになるだろう。
米国のクレジット市場(社債や証券化商品、デリバティブ(金融派生商品)などの取引、流動性が低いのが難点)からは既に警戒シグナルが出ており、新たな金融危機が発生する可能性も排除できなくなっている。
MAGAが分裂する危険性
前述の予算案は、低所得者向け公的医療保険メディケイドや貧困世帯への食費支援などの歳出を削減しているという問題点もある。
トランプ氏は大統領選挙の際、社会保障費を削らずに財政赤字を増やさない予算を成立させると約束していたが、この公約を反故にした形となる。「記憶に残る限り、労働者に最も厳しい予算案だ」との非難が出ているほどだ(5月23日付日本経済新聞)。
トランプ氏を支持する政治運動「MAGA(米国を再び偉大に)」を推進し、第1次トランプ政権で首席戦略官を務めたスティーブ・バノン氏は怒り心頭だろう。MAGAが分裂する危険性が生じているとの指摘もある。
MAGA支持者に多い「反ユダヤ主義」
思い起こせば、2008年のリーマンショック後の米国社会は大いに乱れた。中でも深刻だったのは、反ユダヤ主義が猖獗(しょうけつ)を極めたことだ。
パレスチナ自治区ガザへの攻撃を続けるイスラエルへの批判が高まる現在も、ワシントンで21日、イスラエル大使館職員2人が銃撃され、死亡する事件が発生した。
反ユダヤ主義という悪は根絶されなければならないとの声明を22日に出すなど、トランプ政権は反ユダヤ主義とみなす動きへの取り締まりを強化している。だが、MAGA支持者は以前から反ユダヤ主義者が多く、その傾向が一層強まっている感がある。
金融市場を動揺させ、MAGA支持者の期待を裏切る予算案のせいで、米国で反ユダヤ主義が台頭しないことを祈るばかりだ。
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